彼らは、秘密結社でした 3
「生きていれば、人として一段上がった、別次元の存在に成れるだろう」
御伽噺のように聞こえる。
それはやや悪い冗談のような。
「えっと、上位人種?」
協会に与する見習いたちはそう師匠たちに問う。
「そうだな、現代人からちょっと別次元に片足突っ込んだ、言うなれば前時代人とでもいうかな...エンシェント・ヒュームとか、ハイ・ヒューマンみたいな?」
師である錬金術師らは、はにかみながら肩を持ち上げた。
これらは妄想だと言って片付けたのだ。
「人間の座位で、亜人レベルの座位に上がるのは困難極まりない。竜族は自身の不死性というユニークを肉体から切り離すことで、爬人という種族になったという。不死性の厄介さは、竜族たちの伝説が物語るように、個体で種族を背負っている。故に増えない...」
長老めいた老人が工房の奥から現れる。
トッドも椅子から飛び上がると、長老の下へ駆け寄ってた。
「宗主、お加減は?」
「たわけ、ただの腰じゃ...歳甲斐もなく、娼婦の4Pなんぞしたのが良くなかったらしいな。さて、もう3巡目といった具合に孫娘のような年頃のボボに吸い付いたとたんに、な」
具体的な説明過ぎて、DTの魔法使いや錬金術見習いが委縮している。
流石にトッドも添えてた腕を放しそうになった。
「こ、こら、老人を労われ!!」
逆切れしてるけど、
4P3巡目ってどんな性欲だよ、と。
「師匠は別の見解が?」
「そうだな、現物が手に入らぬ限りは滅多なことは言えぬ。しかしながら...だ、人の欲というのは際限がないというのも実感する故、過ぎたる玩具でももって居るのではないか?」
と、告げてた。
ヨボヨボしているのは、ハッスルしすぎた故の筋肉痛である。
「港街クリシュナの娼館には、顔を出したんだろうな?」
トッドへの問い。
彼は壁に向き直って――「仕事で行ったんですよ、行くわけがないでしょう」ご立腹だ。
だが、協会宗主は残念そうに。
「あの街の娼館は各地から多くの商人が出入りする。地方でも恐らくは同様の手口はあった筈じゃ。...人体実験というのは警戒されると、遣り辛くなるものだ。故に最初は噂が立ち難い地方の片田舎で行うものと、魔法使いでもよく知っている常識じゃぞ?!」
◆
トッドの手配したアサシンたちは、王国の開拓村へ散った。
ひと月ほど経て後、森深い狩猟小屋を経営するひと家族と、遊牧のため高地にて逗留してた親子の変死に辿り着く。
これは、魔法詠唱者協会でなければ結びつかない死亡例であった。
「ほら、な」
腰が治ったという長老は、自らの膝の上にひ孫のような若い娘を置いていた。
「宗主?」
「ああ、儂の孫だと...言っても信じまいな」
呆れてるからだが。
「少女の太ももに、針金みたいな指を這わせて喜ぶ孫など、見たことがありませんからね。その子も娼婦ですか?」
老人はひと差し指を立て、
「これは、の...他のグランドたちには内緒じゃ。若き娘の聖水を浴びると10歳は若返るでな、こうして傍においておるんじゃ! ...で読みは当たっておったろ」
下の方は暴れん坊だが、頭の回転は悪くない。
協会TOPであるのも、ボケないからだが。
「例としてはやはり少ないな...」
評価実験として数百通りは行うと見定めてた。
仮にアーキファクトから得た知識だとしても、クスリの調合などは多くの確認作業を経てるはずだ。
古代の植物や、今は生えてない、自生も栽培もしていないとする類のものは多い。
アーキファクトはあくまでも教科書ていどである認識だった。
「と、なると...」
「実験場は海を渡ったところ、という考えもなくはない」
少女の口を吸ったジジイは、トッドの目をじっと見る。
彼はそっと目を反らすのだが、
「ところで、な...儂に、いつ例のエルフ...会わせてくれるんじゃ?」
誰かが余計な報告をした。
セルコット・シェシーのユニークスキルは、魔法使いにとって垂涎たる希少性についてをだ。
トッド自身は、あたしのことを伏せた形で報告書を描いてたから――誰かが、あの場の後輩が発した“不思議な話”を書かなければ、宗主の目に留まることは無かっただろう。
宗主とてもともとは研究者の端くれ。
錬金術士であるから、魔法使いの――火炎球しか放てない者の仕組みにも興味が湧く。
魔法使いを養成する学校“炎の柱”と協会は共生はしない。
むしろやや、敵対的な立場を取る。
“炎の柱”は、魔法使いを育てるだけ、協会は利益の為に魔法使いを守るスタンスを取る。
違いは大きく深い。
「どうじゃ?」
「さあ、そればかりは彼女次第でしょう」
と、言う外はなかった訳だ。