聖都の攻防 15 父と息子 1
通された応接間は、庁舎の中でもやや狭い感じがする。
間取りは建物の中階に位置して、屋上まで行くとしたら数階分の階段を昇る必要がある。
また、同階の中央に位置した辺りで、左右の部屋への導線はないけど詰めてる感じがした――っていうか通された時からずっと、誰かに見られてるような視線を感じてたというか。
生きた心地がしないというか...
さて入出に際して、窓も選択肢に入るってんなら...侵入経路は5つある。
今、あたしたちが招かれた扉を入れて――。
一方、太守閣下は。
上手に着陣してて、臨戦態勢のような雰囲気。
強面の衛兵がふたり直立不動で...
こちらをじっと見ている雰囲気。
目というか、気配を追われてるような、そんな感じだ。
要するに冒険者としての勘でなら。
この衛兵は、デキる部類のヤバイ連中だということ。
「ウイグスリー商会の会長が来たってことは...またよくない事ですか?」
仲が良ければ「親父殿」なんて付け加えてたと思うけど。
どうもそんな雰囲気じゃなく。
「会ってくれただけで、な。本題としては、近いうちに純金の価値が暴落する恐れがあると、知らせに来たのだ。国中の宝物庫に査察を入れて、白金貨の備蓄量の確認が出来ればいいのだが...時間が惜しいゆえに、その企みが昨日今日ではないというのだ」
真剣さの深度が違う気がした。
どっしりと構えた体格さのある大老と太守殿――父親が身振り手振りで必死に、重大な事なのだ!と叫ぶように伝えようとしている中、太守は静かにアッサムティーをすするだけであった。
「ま、まさか...おまえ、知ってるのか?」
首を左右に傾け、
「白金貨を蓄えているのは、親父たちのような法を順守しない連中たちだからな。世の中に出回っている量と、実社会に与える経済的混乱は小さいというのが、彼らの弁明だ。――ああ、それは方便だと分かっている」
父親の声を遮り、太守はさらに続ける。
「白金貨の主戦場は大商店を構える、広域の貿易商から市場そのもので流通している。明日から白金貨の価値が、ドーセット帝国金貨と比して1枚=10枚になるとレートが変動したら、市民に与える影響は計り知れない。まあ、絶望的になるだろう」
白金貨の贋金説によって信用が損なわれたならば、それまでの白金貨=100銀貨=1000銅貨なんてレートも当然変化するってことなんだけど...。
「それが分かっていて?!」
大老が立つ寸前に、太守はふたりの兵を鎮めてた。
胸倉に飛び掛かっていたらウイグスリー卿の命は危うかったかもしれなかった。
「だから取引したんだ」
「ふんす、なにをだ」
「結社の敵となる者たちの情報だよ。...とは言っても、こちらの意図に反して先手を取られてしまったようだが、それでも取引は成立しアプローチは変わる。市場操作ではなく太守の相談役という地位を得た、か」
あれれ。
衛兵の数が増えてた。
えっと、窓枠にふたり...と、これは窓から潜り込んだ...と?
ただ、太守の方も窓枠の兵には驚いてる様子で。
じゃ、どなた様?