聖都の攻防 14
「――気を取り直して。ウイグスリーの名を出しても...倅に会える可能性はないだろう」
と、いうと。
「ワシが嫌われているからだ」
ああ、そんな身も蓋もない。
でも。
確かにその通りなんだろう。
でも、今はそんな事が“ささやかな我儘”にしか、聞こえてならないのも事実。
そして道があるならと、あの師匠似の怖い人ならば...きっと。
懐に入り込んで、胸ぐらを掴むように脅してきたかも――四の五の言わずに、会わんかバカ者とか。
そんな、感じ。
「ちょ、ちょちょ...セルコットさん、何を!!」
皆が慌てて。
師匠も目を丸くして驚いてた。
あたしは、考えながら身体がそのように動いてたようで。
びょ、病気じゃんよ?!
◇
胸をひたすらに抑え込む大老をまえに。
あたしは平伏しての謝罪中だ。
「...っ嬢ちゃんがあんな行動に出るのも、要するにワシの不甲斐なさ故のことなのだろう。すでに戦いの火蓋は切られておって、一歩どころか半周遅れもいいところだと...嬢ちゃんは言いたいのだな」
いい方向に取られた。
これは、あたしの夢遊病みたいな暴走のせいなのに。
いあ。
大老も分かってたことなんだ。
自分たちが我儘を言える状況ではなくなってたことに。
ただ、そうだと認めるのも...悔しい。
いや、寂しかった。
もたついてた事に腹立たしくて、気恥ずかしかった。
今更、どの面下げて息子に会えばいいのかを。
父親の彼は知らなかった、的な。
「まあ、そこまで代弁されると、ワシのもやっと感が恥ずかしさにしかならんから、心の声らしいもんを表に出さないでくれると...その、老人としては心の臓の休まり具合が良くなるというか...ドキドキが止まらんのだ」
平伏してたあたし背を撫でる老人。
え?! 駄々洩れ???
あたしの方が赤面なんですけど。
◆
太守イートン・ウイグスリーでも、独自に調査はしていた。
結社と思しき連中と会合を持ったり、或いは師匠似の怖い人たちの所属する“赤帽”なる呼称される者たちともだ。
その行動の主たるはひとえに“聖都を守る為”だ。
そうあるべきだと、ウイグスリーの血が騒ぐのだ。
父親とは違うアプローチで、父親とは違う解決を見出す。
結社から贈られてきた書簡――『件の要望を幹部会にて協議した結果、太守閣下のご要望に添えられる方向性が見いだせました。つきましては、今後とも当商会を御贔屓に』――なんて結ばれてた。
何を差し出して取引したのかは分からない。
恐らくは禄でもない事だろう。
「閣下、エントランスに...お父上が!?」
今頃なんの用だって毒突きながら、息子は父に会う決断をした。
しばらくして。
あたしたちは応接間へと通される。
警備兵の多い物々しい庁舎をぐるっと見渡しながら...なんだけどね。
ヒルダさん曰く...
「物々しいが、角の守備を物陰に押し込みながらなら侵入は可能とみている!」
なんていう物騒なことを、あたしの耳に囁きかけてくれるんだが。
その息がこそばゆくて。
こう、背中の辺りがゾクゾクする。
「ヒルダさんは脳筋過ぎます! 当方ならば、要所以外の兵のみ眠らせて潜入です!!」
後輩が対抗意識むきだしで――みなさん、あたしの耳元で息を吹きかけないでください。
ちょっと後輩ちゃん。
今、下っ腹の奥がきゅっと下がった気がします、が?
「なあ、バカ弟子ども...ミロムを見てみろ。この落ち着きっぷりを!! これが大人ってやつだ。どいつもこいつも、警備兵みるなり物騒なことを考えやがって。卿なんざ倅にどんな顔して会えばいいかで青ざめてるのに、よぉ」
あ、師匠のそのデカイ声は...
案の定、大老涙目だ。