聖都の攻防 13
豪快にフられた三男は、部屋の隅で「の」字を床に書いてた。
「さて、変なフラグの痕だが...何か質問は」
「三男さんは?」
あたしの問いにヒルダが首を振る。
「敗者は静かに退場させるのが“優しさ”ってもんだ。これ以上、抉ったらEDになって使い物にならなくなるぞ?!!!」
そうだ、そうそう師匠もED寸前になったことがある。
こぶ付だった頃、娼館で20連敗した夜だった、か。
あたしを女として見ないのも...
まあ、いいか。
「太守さんと渡りをつけるのには?」
既定路線への修正を目指す。
あたしは翁の泳ぐ目を見た。
◇
「あれに話を通すのか」
やや嫌そうなのは、実子だというバツの悪い話ではなく。
「アニキとオヤジは、喧嘩中なんだよ!!」
と、新情報をくれる三男さん。
壁の方に話しかけるように、そっとあたしたちに協力してくれた。
喧嘩の原因は――家族問題にまで根を張る。
2年も口を利かない父と息子のこじれ具合。
中級管理職の役人の子が誘拐されて、その子の救出にウイグスリー商会が総力を挙げたというのだけど、ややひと悶着があった。役人の子を攫った犯罪者たちは、すでに投獄されてた仲間の解放が目的だと宣ったというのだ。
「それが問題?!」
あたしの問いに、後輩が深いため息をついて見せた。
「先輩はバカですから」
あ、はい、どうも...。
「こういう場合は、公には交渉できないんですよ」
と、告げられて。
「この娘の言う通り、まっとうな仕様では交渉などは無理だ。次々に同じ手合いで子供たちが攫われてしまうからな...じゃあどうするかってのが、我が家の稼業みたいなものが出る訳だけども...倅は、内々で処理するはずだったワシの矜持ってのを踏みにじってくれたんじゃよ」
ふむ。
円満解決には至らなかったらしい。
結果を言うと、攫われた子は襲われて心が壊れたというし。
攫った者たちは今も、国境の端で串刺しにされているという。
宗教国家の闇を垣間見た感じだ。
「なにそれ、怖い」
本音出ちゃった。
「あれは、ワシの手口が甘いというのだ」
無法者と交渉する場合は、法を破る覚悟が必要だ。
時には同じ目線に立つこともあるし...
利害関係から、彼らの敵を密告するような立場もとる。
そうやって信用を勝ち取っていくのだとか。
その信用というのが気に食わなかったのだとか。
ウイグスリー商会は表裏の顔を持つと言われることに快く思っていなかったわけだ。
「しかし、結社からよく誘いが来ませんでしたね」
ヒルダさんのティータイムは優雅でならない。
やっぱり育ちが良いと、作法も自然ですねえ。
「世辞はいらないので、もっと褒めなさい...セルコットさん」
あ、ははは。
褒めれば、なんか...くれるの?
「いや、きたさ。一見すると、騎士然とした風貌の二人組だ。ただし、聖騎士でもあれほど悍ましく気味の悪い雰囲気も無いと思って、な。取引を断ったんだ」
正解って声が上がる。
カジノから戻った師匠が、部屋の戸口前にあった。
勝負にしこたま負けた様子で服のはだけ方は異常だった。
「兄上さま、一応...確認ですけど、身分は帝国の公爵閣下...叔父上さまのですから、その」
「大事ない。あの人も賭け事に関しては俺よりも弱かった」
いあ、そこじゃなくて。
これ、国際問題に。