聖都の攻防 10
「ふむ、少し長居し過ぎたな」
天窓に鷲が見える。
何周かしているように見えた。
「仲間からの呼び出しだ。スカウトの返事は後日でいいし、こちらのもう一つの要件だが...すでに企みである“贋金”のすり替えは間もなく完了するとみている」
情報共有っていうけど。
彼らの方が有益で、こちらはとてもそこまで。
「いや、いいんだ。キミたちが動いてくれたお陰で、こちらに向けられていた注意が外されたんだ。鉄壁に守られると、我々も動き難い...」
窓枠に手を掛け、身を乗り出してた。
え?!
また、そこから。
「次に会う時は、同志と呼び合いたいものだな」
って、外へ。
別の世界線にいってた、ミロムさんたちが帰ってくる。
で、開口一番に。
「セルコットさんったら、つまみ食いはダメですよ!!」
ミロムさんメイドのその一言、傷つきますぅ~
あたしのHPは100削れた模様。
いや、その程度じゃどうってことないけど。
ハートは、傷つくんです。
◇
腕で首根っこ捕まえてたと思ってた、ヒルダさんはしばらく混乱してたけど。
あたしは、唐突ではないくらいに一応...
皆にはややオブラートに包みながら、師匠似の影との会話を話して聞かせた。
頭から信じてくれたのは、ウイグスリー卿のみだったけど。
「で、その闘気に当てられて...セルコットだけが意識が飛ばなかったって事か?!」
ああ、なんか変なとこで躓いた子が出たなあ。
「いえ、当方もそこが気にかかりました!!」
え? 後輩もかよ。
別にそこはどうでもよくね?
「いや、おざなりにしちゃいけねえって。私の剣士としてのプライドに関わる」
脳筋の悲しいサガってやつか。
後輩も「ふんす」とか鼻息荒いし...
「気付け薬嗅がされて、ね。あたしだけこっちの世界線に戻されただけだよ...面倒なことにあたしは戦力外通告だったらしく、えっと。まあ、そのー...人畜無害だったから、話がし易いと思ったんだろうねえ」
なんて誤魔化せないだろうことを口走ってた。
いやあ、これくらいオーバーに語れば。
「ふむ...セルコットは怠け癖が無ければ、魔法剣士の印可は貰える子ではある。私と一緒に、先陣切って飛び込める度胸があるからな!!」
うん、治癒士だと言ってパーティーに参加し、誰よりも前で戦ってたのはヒルダさんでしたよね。
あれには度肝を抜かされた。
あたしが慌ててプロテクトのお守りと、マジックシールドの御札を張りに行かなければ、彼女...モンスターからのノックバック食らって大怪我でしたし、ねえ。
いきなり死人出るとこだったよ。
懐かしいけど、危なっかしい記憶だわ。
「――と、すると。今からでは、贋金の方は手遅れという事でしょうか?」
一応、真面目に反応してくれるのはミロムさん。
ウイグスリー卿は唸るばかりだけど。
「今の最高責任者って誰なんですかね、翁?」
あたしは、再び衆目を引き寄せる。
ああ、そんなに注目しないで。
は、、はずい...
「お、うむ。対象が街一つであるとするならば、太守であろうな...」
領主みたいなものらしい。
聖都の治安や最低限の内政業務を担っている――陶片選挙中も、街ごとに配置された太守が必要最低限の小政府として機能するという。ま、本当に限定的な行動しかできないらしく、その役職も世襲できないよう各自一代のみと定められてた。
癒着を恐れてのものらしい。
「取り込まれていなければ」
結社に取り込まれていなければ、ここが唯一の突破口になる。