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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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聖都の攻防 9

 時間が止まってるとは言え、呼吸していないわけじゃない。

 えっとねえ。

 みんなの感覚は、数百倍の濃縮した別の世界線に意識があって――そこでは、師匠によく似た人物から他愛のないトークをして爆笑し、あたしが粗相をした話で笑いを繋げてるとか、そういうのだと後に知ることになる。

 えー。

 あたしって、不幸――なのでは?


 こっちの世界線に戻ると。

 目の前の男は口がもごもご動いてる。

「なんか食べた?」


「君が別の世界線いや、可能性の話をしている最中にね。メイドちゃんが持ってきてくれた茶菓子をひとつ頂いたとこだ。数が合わなくなったと彼女が言ったのなら、()()がひとつ、口の中に放り込んでいったと言うといい...」

 いやいや。

 そんなこと言ったら、いくらあたしに()()()()のミロムさんでも疑うわ。

 この世界線はそんなに優しくできてないよ。



「このスカウトは断ってもいいのでしょうか?」

 ポーカーフェイスでも、気配までは。

 そう、空気にやや少しだけ色が付いたような雰囲気。

「かまわないが、こういうのは異例なことだ。結社についての情報が集まりやすい環境、その始末なども、な...」

 魅力的とは、今の段階では言えない。

 いや、確かに手探りな現状の打開は可能だろう...

 だけど、もっと冷静に考えれば――「止めたいときに止められる、今の状況の方が選択肢が多い気がするんですが?」って、つい本音が口から飛び出してた。

 うん、ここが素直なとこらしい。

 ひと呼吸。

 師匠似の化け物は、壁からゆっくりと離れた。

「確かに。我々も選択肢としては()()()()に持ってはいるが、こと結社に至っては狭窄的になることはある。ただし、彼らを野放しにしていると...キミの大切にしている()()が壊されることは、ほぼ間違いない。その時に無力では――」


「それって、脅迫って言うんですよ?」


「その通りだ。例えば、この娘――」

 男はミロムさんの脇に立つ。

 茶菓子のクッキーがひとつ消失。

「彼女は王国式の次期指南役なのだろう? この大陸で対峙できる剣士は、()()多くは無い。...ふふ、キミのその強張った表情が物語ってるじゃないか。暗殺者狩りの“金色のサイクロプス”、キミのような手練れは結社にも存在する」

 ミロムさんは確かに強いけど、その物差しは“冒険者”の枠から出ない。

 王国式の剣術指南役は、近衛騎士団にその技を教授することが目的――帝国式のと比べれば、一段は落ちる。

 いや、或いはレイバーン卿なら。

「王国式抜刀術は練り込んだ魔力の解放と同時に、神速を超える抜即斬の一撃必殺であろう? 踏み込んで一撃を粉砕する化け物も少なくはない。その時にキミが居ればいいが...」

 これはほんの少し先の未来の可能性。

 あたしが結社探索を止めれば起こり得る可能性みらいだ。


 で、次に――後輩の頭を撫でた。

「この子も...強いな?」

 次元で言えば“冒険者”の枠内で、だ。

 紅の修道女の肩書は、アンダーグラウンドでも耳にはする。

 暗殺者狩りとして対峙したことはないけど、教会と敵対してた狼たちは管を巻いてたなあ。

「あの()()よりかは強いが、頭一つ...そこの帝国式の少女と同じレベルだろう」

 わりと正確な物差しを持っている。

 ただ、彼はあたしの近くに寄ってこない...。

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