聖都の攻防 8
時間が止まるような現象というのは、ある。
いや、正確には強烈なプレッシャーで瞬時に、皆が気絶させられたんだわ。
あたしを除く部屋の中だけ。
凄い技術だけど。
ヒルダの腕から逃れた、あたしが最初にすることは“警戒心”を解くことだった。
「流石だ、この中で場数はキミが最高のようだ!」
褒められてる。
まあ、容姿端麗って訳でもないし。
凹凸のはっきりとしたボディラインって訳でもない。
しいて言えば――うん、場数だろう。
あたしにとっての社会と言えば。
ギルドマスターに借金という枷で馬車馬のように働かされた、盗賊狩りと暗殺者狩り。
どちらも鬼気迫る、アホみたいな環境だった。
これが...
「ああ、その洒落に成らん死線が君を強くした。死生観も変わっただろう? 普段から道化のように振舞うは、己の心の安定化であるのだろう?」
見透かされ過ぎて鼻で笑える。
こんなに評価されるのが滑稽なんて、なんてあたしは皮肉屋になったんだろう。
昔はもっと素直だったのに。
いや、本当に素直だったかな。
「いつか前にも対峙したことがあるような、雰囲気だな」
初めての所作ではないって、言われた。
あたしは覚えてるけど、彼らは......いや、彼が覚えてないってこと?
「この姿を借りて顕現している私は、君を知らない。情報の共有で“金色のサイクロプス”だと呼ばれている暗殺者狩りを生業にしたものだという認識、で合っているだろうか?」
あたしは頷いた。
で、
「それは、ここの部屋にいる仲間にも内緒にしていることだから...」と、促してみた。
本当に知られたくはない。
暗殺者の界隈では“金色の~”は忌語だ。
ヒルダさんだけでなく師匠からも、印象が悪くなるに違いない。
それだけ帝国兵を殺してきた。
いや、違うな。
王国の諜報員だってこの手に掛けた。
ミロムさんだっていい顔はしてくれないだろう。
単に盗賊狩りであるなら、他者に害をなす“社会の嫌われ者”の排除ってことで喜ばれはする。
ま、人殺しぃ~ってラベルは張られるんだけども。
「わりと、後ろ向きな性格なのだな?」
師匠の姿をした化け物が問う。
物腰が柔らかい分、調子は狂わせられっぱなしだけど。
「...っ、そうでもないけど」
「でも、なんであたしたちの前に現れ」
壁にもたれかかっているのはそのままなんだけど。
なんというか隙がないというか。
「結社のことについて、君たちと情報の共有を図りたいと思って......いや、違わないがそれはひとつの用事に過ぎない。私の方はスカウトだな。本来ならば同族からしか採用はしないのだけども、我が師の目に君の姿がとまったので、な。印可である私が直々に」
何の話?
「だからスカウトだ!」
やや、不機嫌そうになる。
呑み込みが悪そうな印象ではなかったと、ひとりごちてるし。
声音も優しそうな雰囲気から少し離れた感じだ。
「えっと、なんでかは」
「師匠の目に留まったからだと言ったが?」
はい。
そうでした。