聖都の攻防 6
会合を終えた“龍海”の会長は、帰宅途中に報せを受ける。
小店の一つが消えたことをだ。
彼が真っ先に想像したのは“金脈”からの催促という一文字である。
力による支配。
いくつかあるけども、秘密結社たちは時々、過剰なまでの“武力”を用いる時がある。
これらは教育だという。
彼ら自身もそうだと思ってたいふしがある。
「商会の店長を呼び出せ! 大至急だ!!!!」
会長の動揺は、馭者には伝わらない。
ああ、会長さん取り乱してんなあくらいの感想を胸に抱く。
これがルームミラーよろしく、客車の中にある会長の血相と相まってならば、その必死さが伝わったのだろう。
馭者には幸いだった。
「はいで~」
なんて間抜けめいた声音で返されてた。
◆
警備隊から仕入れた話――。
「一家惨殺の現場から、砕かれた紫水晶が散らばってたとか。何か思い当たることはあるのかな?」
ミロムさんが、茶菓子を用意しながらあたしらに問うてきた。
勿論、彼女の目当てはその茶会の中心人物である、ウイグスリー卿ひとりだ。
間違ってもあたしじゃあ、ないし。
「当たり前です。間違うも何も、先輩に振って何が聞けるというんです!?」
後輩から胸を刺す言葉を受ける。
「そんな平な胸に刺す刃などありません。揉み甲斐もない」
おう、再び。
強烈過ぎる。
な、なに怒って...
「怒ってません!」
「まあ、痴話喧嘩は犬も食わぬぞ?」
ウイグスリー卿が心配して声を掛けてきた。
件の卿も、会話に入れなさそうだ。
「先輩は、こうやって弄ると嬉しそうに尻尾を振る変態なので、お気になさらずに...卿、どうぞミロムさんに解答をお願いします」
いやあ、散々な言われようだ。
あたし、可哀そうじゃないの?
ミロムさんの方へ視線を向けても『あとで』というお預けを食らった。
「セルコットには女難の相でも出てるのかな?」
ヒルダさんからは同情された。
師匠は未だカジノから帰ってきてない。
あの人、本当に大丈夫かな。
「ミロム嬢には先ず、この情報をどう仕入れたかを窺いたい」
まあ当然だろう。
違法すれすれとなると、問題は別の方向へ波及しかねない。
「巡回に来られた警備兵がたにお茶をだしながら、それとなく問うてみましたところ。彼らも最初は渋っておられましたが、事件性が無いとの事で――現場の状況――だけを聞くに至った次第です」
大店のメイドに話せるギリギリの話題。
存外、口の軽い連中だと思うけど。
仮に上司に咎められたとしても、その程度ならばと見逃すかもしれない。
「ふむ、見事な誘導尋問であるな」
と一呼吸。
「その犯行は、レッドキャッパーであろう」
ああ、ウイグスリー卿が協力者と呼ぶ連中のことだ。
あたしたちが下水道から侵入を試みた聖都に、彼らはすでにあるという事が分かった瞬間。