彼らは、秘密結社でした 2
宗主、或いは団主という人物が中心にいる筈だ。
教会っぽい組織だと、枢機卿が複数いるだろうし、王国めいたものならば...公爵や侯爵などであろうか。そうした最低でも10人は、最側近と呼ばれるような輩が宗主の周りを硬め、守っているに違いない...いや、側近の下位にも多くの構成員があるだろうから、玉への道程は困難極まりない。
で、次に取り巻く組織のさならる構成図だ。
今までを単に、玉を守る城の構造物と考えると、これから考えるのは城壁だったり外堀だったりする。
恐らくは、複数の極めて複雑に絡み合った形で死角を削り、攻撃と知ればいつでも切り離せるように設計されているだろう。
まあ、あたしが悪役ならそうするって感じだろうか。
「そうしますか?」
後輩に何度も聞き返されてる。
しばらく歩いてて、唐突に踵を返したと思ったら...
「やっぱり、そうしますか?!」
だ。
何回、尋ねるんだよ。
いい加減に――って不満は顔に出たらしい。
「組織力と、有り余る資金力、そしてエルフみたいな長寿とくれば...常人の及ばない尺度で物事を図るのでしょうが」
何だ、この引っかかるような言い回し方。
神父が『今日はもう遅いから、教会のひと部屋で』なんて殊勝なことを告げたのち、彼女に手を引かれて歩いている。
あたしなりの推理を披露してから、だ。
ずっと、突っかかるというか。
「姐さんには無理かなと」
「ほう」
その心は?
「資金力! 造ったその場で蒸発するような、借金体質ではそもそも、壮大な組織運用能力は見込めません。故に神輿は軽い方が良い...という言葉の方が、先んじて浮かんでしまいました。捉えた教区長がもつ情報は断片的で、組織の全体像さえ見えない。つまり...下部の末端組織は、自分たちが組織の正当なる構成員だと思い込まされている!!」
ただし...あたしも胸中で唱えるように。
《ただし、自分たちは黒装束を身にまとう“秘密結社”だが、組織名さえ知らない事実と葛藤する者たちである》
◆
港街クリシュナの停留場に旅商人がある。
皮革製の角ばった鞄に、バックパック姿の初老の婆さん。
唾の長く広い帽子で顔を隠していたが、しわがれた声で話す女性――「何事かな?」
捕り物かい?と、聞いたそうだ。
停留場の案内係は、煙草の煙を燻らせながら。
「さあてね、細かい事は守備隊の連中も教えてくれなかったけどね、ここの領主さまが汚職...いや、脱税だったかな。とにかく悪さをしてね、まあ、いい領主さまじゃなかったからこっちも好印象なんてのはなかったけどね」
と、世間話。
「しかし、そうすると...どうなるんだろうねえ」
「どう、とは?」
婆さんも食いついてくる。
「領主さまのご子息、ご息女さまは王都の学校に通ってらっしゃる。突然、家が無くなるとか...なんかさ、そういうの...なったら可哀そうだなあって、ね」
案内係は、婆さんに次の便のチケットを手渡した。
王都行きの厚紙。
銀貨1枚をカウンターに載せる。
「おっと、お釣り...を?!」
レジから目を放し、再びカウンターへ向けると旅商人は消えていたという。
これは守備隊に寄せられた、不審者目撃情報のひとつだった。
◆
協会のトッドも、正教会と同じ相手を追っていた。
最初の手掛かりである“妖精の粉”事件である――確かに首謀者らしき、地下組織みたいなのを捕縛する事は出来た。
が、彼らの供述に“妖精の粉”は出てこない。
地下闘技場での使用例では、肉体が変化するほどの危険性が見られなかった。
これは、協会に所属している錬金術たちの見解である。
「拳闘士たちには、毒性の高い部分を除去した別の薬を与えたか、或いはそもそも偽薬だった可能性しかない」
お抱え錬金術師が、トッドの方へ向き直る。
答えを求めている顔だ。
「人を化け物にしてしまう薬...肉体の急激な変化に伴って身体が、その成長速度と状態異常からの回復に追いつけない故に...起因する過労死が、現在の状態だ。つまるところ栄養不足だ」
椅子の上でくるくる回る。
くるくる回る椅子を与えたから、こう、毎日...好きなだけ回っている。
目が回ると、キラキラを撒き散らかすのは迷惑な話だ。
「目的は分からんが、変化した肉体が仮に正常に生きた肉片であれば」