聖都の攻防 5
人々の往来を妨げるもの。
警備兵らが敷いた規制線である――“青海”と呼ばれていた両替商に広がった人の壁が、馬車道にまでこぼれてた。今現在、教皇選出の陶片選挙真っ只中だから、馬車の通る本数も稀くらいに落ち込んでた。
そんな閑散とした中で、ウイグスリー卿は立派な馬車を引っ張り出してわけだ。
お忍び集会なのに、帰りはめっちゃ人目に晒されてた。
◇
「ところで、ウイグスリー卿の言ってた...情報網というのは?」
あたしは面向いの翁に問うてみた。
やや、不審そうな表情だったけど。
「――どこから話せばいいか。帝国に出店する際、トラブル解決人であるワシらがその、トラブルに巻き込まれた事があってな......その脱出に彼らが、力を貸してくれたというわけだ。以来、ハトを介して連絡を取り合うようにした...まあ、そういうわけなんだが」
色々、伏せられたような気がする。
師匠の連れ子みたいに突然押しかけてきて、いきなり叔父様とか呼んでるような関係だ。
信用は出来ても、信頼は得られない。
「お前さんらは、肝が据わり過ぎていないか?」
ゴト...と、馬車の車輪が土を噛み始める音が聞こえた。
ゆっくりと動き出し、客車が上下に揺れた。
「...だな。ワシも何処までお前さんらに話せば迷ってる。別に隠している訳じゃあない、ワシも彼らとは直接やり合う事が無いってだけで――いや、正確ではないな。帝国ではその一人に出会ってはいる......人外ならざる者としか」
ふむ。
後輩は考え込んでるし、ヒルダさんも腕を抱えて――デカ、いなあ。
「どこ視てるんです?」
後輩から刺す視線が。
うぎゃあ!! 目が痛い、目が痛い。
ヒルダのおっぱい視てたら、後輩に目を刺された“指先”で。
「何もそんなことせんでも」というヒルダに代わり「これはセクハラです!訴えるべきです!!」後輩の正論が胸に刺さる。
あう、やめて。
あ、あたしのライフが削れていく。
「まあ、おふざけはこの辺で。概ね理解は出来ました! その者たちとは当方も、帝国の庭先にて対峙したことがあると思います。女神正教会に過剰な反応を示されていましたが、当時のソレが、アレなのだとすると...」
後輩が帝国に居る時期か。
あたしは...
ミロムさんの顔が浮かぶ。
ふんす、ふんすと鼻息の荒いヒルダさんも、ああ! 鬼火時代か。
「彼らのような人外と対峙して、良く生きてたな紅どの!!」
普通に翁に驚かれてる。
彼らの放つプレッシャーは、死線を掻い潜ってきた翁の強心臓でもOUTだと語ってた。
ま、後輩曰く――「自然体なんですよ。そこにただあるだけで敵意をこちらが、勝手に思い込んでしまうほど、強烈な相手であるというだけなんです。彼らがひとたび動くと...話になりませんでした。当方の完敗です...いえ、その当時も慢心してた訳ではありませんでしたが、勝ち筋の見えないクソゲーそのものでした」――って言葉を選ばない愚痴を聞かされた。
「生き延びたというよりも。生かされた、です」
後輩は『今でも夢に見ます』なんて言う。
震える拳を見せて、ぎこちなく微笑むのだ。
何だろう、少し妬けるような気分だ。