聖都の攻防 4
結社の狙いは、世界に新たなる秩序を生み出す事。
彼らの上位組織は言った『世界に秩序と奇跡』を与えると――ただのテロではなく、新世界を約束するものだという。
まあ、掌握するための詭弁だろう。
マディア自身もそれほど心酔している訳ではない。
団主からも、自身が統括する結社の他にいくつかの結社があると、仄めかしてたことがある。
「大事なのは我らの目的は、新たなる秩序を作り出すことにある!」
団主の尊き御言葉ではあるけども。
マディアからすると、誰かの言葉の受け売りな気がしてならない。
◆
両替商のひとつに聖都の警備兵が入ってた。
店の入り口には規制線が張られ、物々しい雰囲気の中で...。
白い布を被せられたものが運び出されてた。
やじ馬たちからの話に耳を立てて聞くと、
『店主家族と、使用人までも惨殺されたらしいのよ』――所々不確かな言葉も見受けられたけど、概ねこんな雰囲気のセリフとしてつながったところ。
紅の修道女こと後輩が小首をかしげてた。
彼女の情報収集は、町の噂集めである。
身分不確かな者が警備兵に尋ねたところで門前払い。
或いは不審者認定されるのがオチだ。
ならば、奥様方の井戸端会議ほど有意義なものは無く。
また、聞き易いわけだ。
こちらも面白そうな噂で応酬すれば、より深い噂元にたどり着けるだろう。
「なんだ、そういう事?」
後輩の手法にケチをつけた訳じゃない。
ただ、わりと単純なんだなあと。
「その反応が嫌味として捉えました。これは何ハラで訴えるべきでしょうか?」
うわああああ。
そ、そんなマジに受け取らなくても。
「ただ、こんな閉鎖された都市のなかで殺人は......珍しいのでは?」
会合終わりに合流したヒルダさん。
師匠は、ウイグスリーさんに用立てて貰った“軍資金”でカジノへと直行している。
マジ、働かねえなあの人は。
「会合に出られるのは大店である、ごく限られた者だけだ。例えば、係累である小店たちや、商会に共同出資している系列、または別の組合を率いている場合には、その代表者が会合に顔を出せるという仕組みで...聖都には大小の両替商がある。まあ、聖国の首都だけあって街は広いからのう」
ウイグスリー卿は、そうつぶやいた。
と、なるともぐりではなくどこかの系列店というわけか。
「噂話では、店主は“青海”と」
ウイグスリー卿は唸り、
「紅どのは覚えてるかの? ギャングめいた紳士のヤツを」
後輩はコクリと頷く。
「あれの“龍海”の長老が支配しておる店じゃな」
噂が正しければの話だ。
警備兵が運び出した遺体は、数十人分で。
殺された人々は、一族郎党――つまり、一家の主人だけでなく妻、傍女、幼い子供たちなどが含まれてたという話だ。
検死がされたようだけども。
科学的とは言えないだろう。
なんとなく不審死を疑った、くらいのことだ。