聖都の攻防 2
両替商の組合が、聖都にもある。
ウトウィック・ウイグスリーは、姪ふたりを随伴して会合に出た。
ヒルダにして、行動から不安を露わにして。
ミロムは家事が手に就かない、どこか上の空だった。
姪のひとりが後輩であるから、ふたりの心配は半分で済んでいるようで。
あたしだけだったら...
「ワシも心不全であの世見るかも」
なんて、ウイグスリー翁を苦笑させた。
えっと、
あたしってそんなに可哀そうな子なの?
◇
両替商というと...
んー、両替するほど金がなかったんで。
「孫同伴とは、もうろくでもしたか?」
嫌味が飛んできた。
翁は表情を変えることなく、
「姪っ子たちだ。まあ、そうだな社会科見学でも...違うな。この世界を見せて、将来の後継者育成とでもいえば、皆も理解してくれるだろうか」
よく舌が回るなあって感心する。
これは交渉。
「そういう事にしておいてやる、が。この集まりは?」
「俺のとこの情報網に、奇妙な話が舞い込んできた」
翁の一言で、場の空気が変わった。
というか、ぴりついた焦がれるような雰囲気にだ。
殺気にも似て、とても...
居心地がいい。
後輩も能面だけど耳がかすかに動いてて。
あたしは――漏らしてた。
《ああああああああああああああああああああああああああ...》
「後継者って話だったが、そっちのちっこいの肝が座ってるようだから、考えておいた方がいいんじゃないか?」
あたしが部屋を飛び出した後のやり取りなので、詳しくは知らない。
でも、漏らす子は「ないよなあ」ってことで一致したらしい。
「で、情報網ってことは」
「うん、白金貨に贋金を混ぜるという事なんだが」
会合の衆目が唸り、そして笑った。
いやいやって、声も上がる。
「金貨に細工する? コスト面からして旨味が薄い」
金貨はすでに銀で水増しされている。
だから白っぽく見えている訳で。
金貨の色が変わるとなれば、その時点で硬貨としての信用度は下がる。
「市民レベルで手にする者は、ごく限られているのも金貨としての価値を高めている。まあ、仮に市民でも気軽に手にするほどで回ったら...贋金を使った者たちは大損じゃないのか?」
端々から同様の声が上がるんだけど、翁と話を交わしているのはせいぜい、3,4人ほど。
巻紙煙草を燻らせるギャングっぽい紳士とか。
縦髪ドリルの熟女。
童顔、巨乳のJKみたいな女商人くらいか。
翁へ後輩が耳打ち、
「あの人たちは味方なの?」
「商売敵だが、ここ4、5年は同じ顔だよ」
つまりは。
あたしたちのように、ぽっと出ではないという意味。
逆にその主要メンバーから翁が疑われたら...
「それもない。レッドキャッパーと渡りがつけられるのは、ワシだけだからな」
その情報網が信用しているのも、共通の敵と戦ったことのある翁だけという。
さて、その組織はなんだろう?