聖都の攻防 1
商業区の下水道では大騒ぎになってる頃だろう。
海兵隊らが仕掛けたトラップにはまった、捜索隊の一部の悲鳴が木霊する。
当然、侵入者があったという疑いが、事実に代わるわけだけども。
トラップを仕掛けたことで。
「ここかー!!」
って、マンホール蓋をこじ開けた先でひと騒動となり......
跳ね橋街の警備兵は、大衆浴場の女湯へ突入し、逆にたたき出されるという珍事となった。
◇
そんな話を後日談のように聞かされた。
「誘導するにしても、酷くない?」
沐浴中のあたしら。
こんなあられもない姿を、突如飛び込んできた男たちに見られたのだ。
「あられもないって、みんなタオル巻いて“ブリトー”よろしくサウナで寛いでただけだよ。流石に女湯だからって、こんな浴槽があるのは一軒家か、高級宿屋くらいなものだよ?」
と、ミロムさんに諭された。
こういうやり取りは久しくなかったなあ。
「ほら、目をつむって」
頭を洗うから、と。
あたしの髪、一本一本を懇切丁寧に洗い出す。
後輩は、浴槽の中からこっちを見ているようで――力強い視線をTKBに感じますとも。
「先輩って本当にミロム先輩を信用してるんですね!!?」
ええ、もちろん。
今、声に出すとシャンプーが口の中に入り込みそうである。
「相思相愛ってのも、気分がいいですね!」
お、ミロムさんもですか。
嬉しいなあ。
「でも、ストレートなんですよね?」
「その、ストレートが良くわからないんだよね。マツタケは見れるし、たぶん抵抗はないと思うけど。行為は“ない”と思ってる自分がちゃんと......心にあるんだよね」
不思議だけど。
不思議じゃないのかもしれない。
「難しいことは、ね」
母性愛を感じます。
ミロムさんの大きな胸に抱かれて。
ふふ、悔しかろう~
後輩の視線が弱くなる。
つむってた目をあけると、彼女は湯船から脱衣所へ消えていた。
むむ、嫉妬か?
「こんな平和な時間はそう長くないかも、ね」
うん、まあ。
確かに。
◇
ピカピカに磨き上げられた、後輩。
フリルのドレスがよく似合う。
その炎のような赤い髪も......ん? こいつ髪、赤かったっけ。
「叔父様。白金貨ってどんな方が使われるのですか?」
いっとうまともな問いだ。
あたしには思いつかない。
「まあ、そうだねえ。白金貨は聖国の価値で言うと、銀貨100枚から150枚相当だ。今、教皇選出期間中にため政府は、国内経済に対して性急な対策が講じられないから、物価は少し上がり気味になるだろうね。と、すれば銀貨と金貨の差は大きく広がるはずだ。また、同時に多く出回る銅貨だって回収傾向になる」
考えるミロムよりも、後輩が唸る。
師匠とヒルダも似た回答を得たようだけど――。
「流通させる目的じゃないな、これ」
「ええ。国に回収させるんですね、ほぼ純金である金貨が国庫に入る。これが市場に出回ると、今まで調整してきた金相場はガッタガタになります」
金鉱山からは、金よりも銀や石英が多く取れる。
形容できない独特な金色は、人々を惹きつけて止まない魔力がある。
鉱山の近くにはほぼ川が流れているから、砂金も集めてインゴットを作るのは苦労があるけど、出来ないわけじゃない。
でも、金貨の為にはいささか、割の合わないコストを支払うことになる。
「ガッタガタにして何の意味が?!」