ただ今の中継は、スラム街の空き家からお送り...2
「ああ、それは否定しない」
リビングだった部屋へ移動。
煮びたしみたいになってた茄、いやもとい後輩もだ。
今は、すべての侵入者がリビングだった部屋に集まってた。
やっぱり無理は承知で海兵隊は、あと10人欲しかった。
「いや、何人いても見つかった後の白兵戦を想定するのはバカらしい。多勢に無勢だという事を忘れるな! バカ弟子」
あたしを刺すような視線が師匠から注がれる。
うん、痛い。
「幸い、敵の注目は分散される」
おっと何故に?
「さっきも言ったけど、秘密結社は彼らと接点がありそうな者に“注視”せざる得ない。私たちの方は、セルコットに関わる事で自然と結びついたものだけど。彼らはそうではない!!」
兄である師匠からも『よく言った!』なんて合いの手が。
それ必要?
「リーズ王国の次期剣術指南役、ミロム・バーナード。最高の王国魔法剣士が認める才女は、何を思ったか大陸中の実力者に声を掛けまくって“鬼火”なる冒険者パーティの結成に奔走している...事実、これは秘密結社にとって脅威ではないだろうか?」
ヒルダさんは宣う。
ミロムさんの方も、
「そんな大層な話じゃないよ?」
謙遜はしているようだけど、まんざらでもない表情で。
これは彼女なりの照れ隠しなんだけど。
ここら辺は普通に、いや正常な女の子だったり、人間らしく振舞ってる。
「相手の受け取り方次第ですよ...私だって、皇女の籍は残したまま帝国の暗部に居ますからね。秘密結社にしてみれば、です! 次に狙われるのが自分たちではないか、リストに載っているか知りたいのではないかってことで...」
ああ、確かに。
そうなると。
後輩は?
「“紅”は、宗教界隈でも有名な神罰執行機関の人間だ。いや、正確にはエルフだっけ? まあいい。“紅の修道女”と、言葉にすればこのラグナル聖国の信徒たちでさえ身を震わせて本気で怯えるだろう」
えっと、なんで?
確かに超大陸での“竜を御する乙女神”信仰は主流派だけど。
「世界に数多広がる宗教において、女神正教がほぼ頂点だからだ。ドーセット帝国国教会だって女神正教からの分派に過ぎず、その証左として教皇は存在せずだ。うちのTOPはたしか...」
師匠は、ヒルダさんに目くばせして。
「大司教どまりですね」
と、言わせてた。
他人の脳を使う当たりは、まあいいか。
そうなると、これは推測だけど。
「秘密結社の根っこには、宗教家ってのも含まれると考えられる。まあ、女神正教のように神様とコンタクトが取れるチャンネル持ちが総本山に居ない分派、ペテンってのは“神”の名を騙った罰当たりな連中になるんでな、みんなどこかで怯えてるもんだ」
だとしても。
秘密結社の崇高な考えって何だろう?
いや、そもそも。
「セルコットさん?」
ミロムがあたしを見てる。
ちょっと気が付かなかったけど、何故か、みんなの視線が。
え?
◇
この会話の中で、あたしだけが発声してないことに不思議がられてた。
そう、あたしは心の声と耳から聞こえてきた会話を重ねてただけで、ひとことも...発してなくて。
みんなが心配そうに見てる。
師匠曰く――「バカ弟子、ぽんぽん痛いのか?」
「ちぃがいまーすぅー!!!」
デリカシーの欠片もない発想にキレた。
ポンポンが痛かったのは3日前に終わった――下水道で汚物を握ってた時、ようやく長いツキモノが終了した。下腹に重苦しい鈍痛と、腰にも違和感がある。
下着には血糊がべっとり付くし...踏んだり蹴ったりだ。
エルフのあたしでも、準備万端になった証ではあるんだけど...
「おお、セルコットが口を開いたぞ!!」
師匠からあたしの名を耳にするとは、
いや、それよりも押し黙ってるだけでこんなに騒がれるなら、ちょいちょい口を閉ざすか。