彼らは、秘密結社でした 1
港街クリシュナ。
王国の貿易港のひとつで、対外政策における拠点的立場が重なる重要な街。
領主は、この政治的な立場により辺境公という肩書が当代のみに赦されているという――あくまでも一代限りの爵位なので、対外政策の拠点という役割が移譲されれば、自然消滅するものである。
そこに人の欲望が渦巻く。
現当主は孫の代まで安泰な政治的立場を求め、うまい汁にはアリが群がるもの。
秘密結社“アメジスト”はその欲望の中から生まれてと考えられていた。
「むしろ、アメジストのを知らぬ方が多い。拠点の中ではこれ見よがしに関連示唆するようなものばかり見つかっておいて、肝心のソレを知る者が一人もいない。教区長でさえダンマリなのか、知らないのか区別もつかない」
教会には“監察”という名目で神父が遣わされてた。
紅の修道女とは、知己の間のようで――少し離れたソファにあたしがいる部屋で耳打ちして話してる。
咳払い。
流石にコソコソ話をするなら、
「神父、こちら当方の先輩であられる...」
「火炎球の魔女であられます、な」
セルコット・シェシーです、と。
自己紹介だけは済ませたけど、どうもそれ以上の身上もよく存じている様子。
なんか尻の穴がムズ痒い気がする。
「知ってましたか?!」
ちょっと分かり易い難癖さに感じたけど。
よそ見を詩ながら、バツの悪さは、あたしも一緒。
知ってて知らぬふりができるのは高度なテクニックだと思う。
ことコミュニケーションにおいて、ポーカーフェイスはできても身体の所作にはぎこちなさが残る。
「知られたがってた?」
割って入った気はした。
まあ、あたしだけがふたりの事情を知らないだけだし。
いや、本当に後輩の仕事場だって、修道女の形をしているから...そいうなんだろうって。
「組織名はどうでもいい。手足のひとつが捥がれようとも...要するに」
「痛手ではない。まるでタコか、イカのような存在ですね?!」
また、あたしのバカ。
合いの手を。
二人の話は難しい。
結局、教区長らがアジトだとしていた監視塔で、連れ去られた“あたし”は保護された。
教会の勢力により黒装束は捕縛。
冒険者ギルドとギルド長らは、魔法詠唱者協会で捕縛された――港街の暗部が明るみに出ただけで、誰が得をしたのだろうか。
「謎が深まった気がしないでもない。アンダーグラウンドのひとつはそこそこ大きな街にはつきものだし、胴元や元締めといった顔役はいるもの。いや、いない方がそれはそれで怖くない?」
神父に不審がられる。
「街のごろつきを纏めるのは、盗賊ギルド。たいていの場合は、街の暗部から内外で治安の差が生まれるよう手心を加えていると...あたしの元主人だった“碧眼のハイエナ”親分は言ってた。若いけど、その道じゃ凄腕の盗賊だったらしいからね。情報に誤りはないと思う」
で、彼をこの場に引きずり出すとして。
この街の怪しさは何だ。
港街と言えば、桟橋で働く男手の差配を行うスジ者がある筈だ。
マフィアとか、はたまた、ファミリーと呼ばれたヤクザ者である。
ちょっと見なかったな。
「裏取引もあるだろうし...抜け荷も、ね」
舶来品だといった教区長のハンドガンは、その一例であろうか。
入手方法は、交易商が献上したものだと教区長は告げた。
裏の取りようがない。
「じゃ、秘密結社のことを大まかに推理しよう! 彼らの目的は不明だけど...“妖精の粉”から推測すると、永続的な肉体強化薬の製造であると推測できる。先輩のユニークスキル“神の寵愛”=守護神の力により、ステータス異常が起こり難い」
後輩があたしの方へ視線を向ける。
何か言いたげなような、
「いや、極めて高い耐性がある」
言い換えやがった。
吸血種か吸血することによって、他人のスキルを触り程度に発動できる能力者であれば。
確かにあたしのユニークが利用できるらしい。
「強化薬の使いどころは...」
「兵士の強化とか、肉体の脆弱さを補うものだとして拡大解釈すれば...不老不死も、か?」
神父が継ぎ足す。
自身で鼻で笑い「いや、それは飛躍し過ぎたか」って考えを棄てた。
「何れにせよ、この組織は軍にも顔が利き、外にも拠点があり、財力もある...」
ちょっと背筋に寒いものを感じる。
教区長が加担したのも金であろう。
監察の調べでは、寄付金という名の賄賂が多数王都で使用された。
どこの誰に渡ったかはしばらく時間が必要だ。