跳ね橋を超えて、4
楽団として街に入った、あたしたちが帰ってこないので――宿屋の主人は、残された荷馬車と馬屋を警備兵とともに捜索し始めてた――ゴトゴトと鳴く、荷馬車の不審な異音。
他人気配に対して敏感に反応したのだろう。
秘密結社の元構成員たちが、だ。
まあ、だらしなくその気配に助けを求めたのだ。
二重底の隠し床板を剝がされて、
松明の灯りが母衣の中を照らし出す。
ああ、みればわかるけど...むさいおっさんが寿司詰めよろしく折りたたまれて、突っ込まれてた。
気の毒なのは、だ。
女の尻じゃなく、
野郎の尻に、股間に顔がある連中の方で。
「人だ! 人が居るぞ!!!」
って声が上がる。
積み荷になってた連中は、こう思った。
《ああ、助かった》
と。
で、警備兵たちがのぞき込み、息をのむ彼らと目が合う。
灯りが再び男たちに向けられ...
「あちちちち!!!!」
火がちかい、火がちかい。
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どこからともなく「手配犯だー」って声が上がる。
そうだ、忘れてた。
馬車は2台あった。
その2台の馬なし台車から、生き残った賊が発見されたのだ。
師匠曰く、
「あん? そりゃ、敵方の出方が分からないに決まってる。一つのところに詰めて、だ。全員口封じに殺されたら、それを運んでた俺たちは傭兵の恨みをそのまま...買っちまう。もとい仮に犯罪者でも、だ。法治国家の中での犯罪は、犯罪。殺人の濡れ衣なんざ着たくねえのさ、俺っちはな」
って、言ってた。
だから2台の荷馬車に分けて、発見されやすいようにした。
どちらも口封じされなければもっといいんだけど。
警備隊長と目が合う傭兵はやや虚ろな目をしてた。
いや、口封じされると思って怯えてただけかもしれないけど、憔悴しきってる様子で首を小刻みに振って――懇願でもしているようにも「どうしましたか、隊長?!」
声を掛けた兵に向けた隊長の顔が怖かった。
「い、や。なんでもない...なんでも」
「こいつら手配犯ですね! 冒険者ギルドに古い記録がありました」
最初から傭兵になる者は少ない。
没落した貴族の子弟が、冒険者になってから見崩れするものが大半と聞く。
そうした連中の倫理観は無いに等しく、野党のように暴力で訴える者が多かった。
また、傭兵仕事に参加するも、ちゃんと傭兵らしい仕事はしない。
いや、しているように見せるのだけは上手かった。
「罪状は?」
「基本的には関係のない村への襲撃でしょうか。若い村娘を犯し、攫い、売り飛ばすとか...」
この時点で、隊員たちの怒りのボルテージが跳ねあがってた。
これの庇いだては難しい。
いくら傭兵ギルドから賄賂を貰ってると言っても...
賊徒からのおめこぼしを~っていう目が癪に障る。
《みな、自業自得ではないか!》
舌打ちしかけた。
いや、ここでソレをしたのでは隊員から怪しまれる。
「とりあえず番所に連れて行け。今、この国で唯一機能しているのは街の石牢だけだからな」
国全体としては政治も外交も、機能面で休眠状態ではあるが。
街や領国経営では、各領主の差配次第、つまり拡大解釈の自治権が強くなるという。
跳ね橋の街も、石牢(=奉行所・裁判所・拘置所みたいな)が犯罪者の一時預かり所として機能し、領主が小さな政府として孤軍奮闘することになる。
◇
さて、あたしたちだが。
う~ん、いいことした後の下水道は...すっごい香しいもんですねえ。
涙、出てきそうです。
「ツーンと来ますが、先輩、くれぐれも火属性魔法は発動しないでください」
よくも、こんな辛いとこで後輩、君は声を出せるものだなあ。
あたしは、声が出ないよ。
今、ここで返事したら...窒息しそう。
下水口から侵入しようとした折。
格子があったので、これを小さな火炎球で吹き飛ばしたら、思いのほか大きな爆発につながった。
危うくバレるところだった。
「小さな火種がガスに引火、瞬く間に下水道は火の海になるだけじゃなく...地上の方にも被害が出るでしょう。当方はその場合、真っ先に他人のフリとさせて戴きます」
えー。
そんときはみんな、一蓮托生で髪もチリチリに。