跳ね橋を超えて、3
「聖都の用地は、背に川幅の広い河川を背負った状態で、堀を構える。城塞都市のいくつかあるパターンの一つです」
って、淡々と話し始める。
まるで見てきたかのように...
「見てきましたよ? 自分の足で周囲の状況を確認する、当たり前のことじゃないですか!!」
と、後輩が真顔であたしの心をえぐっていく。
最近、相手をしないからもしや...
「嫉妬? 自惚れるのも大概に、当方は飢えてませんので」
万年発情期のような獣でも見ているような目。
その目は、止めて~
◇
城壁の高さはこの風土としては“普通”だ。
攻城砲が無いから、堀を構えるだけで十分な防御機能を有することになる。
しかも跳ね橋の方は城塞都市側。
つまりは聖都の方にあって、アホみたいに太い鎖を巻き上げて城門側に張り付いてた。
橋の長さは恐らくのところ、100メートルは超えるだろうし。
籠城の際は、その橋を敵軍の目の前で落すように出来ているという。
「その情報は?」
「この町の教会関係者から聞き込みしました」
神父たちのDTを逆手に?!
「そんなはしたない真似はしません。後輩を何だと思ってるんですか!!」
怒られた。
いや、うーん...今のは失言だったと、反省しよう。
「蜂蜜酒を奢れば簡単に話してくれます」
おっと、口の軽い教徒発見ですね!
そんなんでいいのか、ラグナルの正教は。
「それは俺から補足する。ここいらの跳ね橋が降りる街ってのは、これ自体が軍事拠点になっている。目に見えている兵士は極わずかで、6交代制の24時間寝ずの索敵ってのをやっているってのが常時だからかなあ、昔からこの街に棲む聖職者ってのは、わきが甘かったもんよ。まあ、懐が温かいのは勿論のこと、摺られたのも分からんほど酔いつぶれる習性は、今も変わらんって事か」
な、なに? その情報。
まさか、師匠...
「こっちの懐が寒くなったら、いい小遣い稼ぎを...」
そんなことしてるから、例の准男爵に御厄介になったのでは?
とか...あたしは思っただけなんだけど。
師匠の勘の鋭さと来たら、
「おい、バカ弟子!!」
「いえ、何も考えてません」
そのひと睨みが怖い。
◇
あたしたちは、堀の方へ降りてた。
跳ね橋を見張る警備兵には、死角になる位置に小舟がある。
「これは?」
あたしの問いはあっさりスルーされた。
ミロムさんは微笑みを浮かべてるんだけど。
「堀の幅は約100メートル。水深は丁度5メートルくらいだと言質を取りました」
ふむふむ...さっぱりだ。
「堀までは警備兵がいないと?」
「これだけ立派な防衛拠点があるから油断してるんでしょう。しかも、まだ、誰にも侵入されたことのない...正に難攻不落の城塞都市だそうです!!」
後輩は、この堀付近まで降りてみたという。
重い甲冑を纏った兵士などが渡河するには向かないし。
また、地上の警備兵に見つからずに、城壁を越えようとするのも物理的に難しい。
と、説明し終えたところで。
「抜け道があります...お勧めできるというわけでは...ないんですが」
水路まで降りといて、今更感はある。