跳ね橋を超えて、2
陶片選挙の最中は、人の出入りが極めて限られる。
長引けば、市民の生活レベルにも翳りが出るんだけど。
7日に一度だけ、跳ね橋が下げられて公認交易商の荷馬車が通される――中身は生活必需品などが大半で、神殿に籠っている枢機卿たちへの娯楽も...補充されるようだ。が、この交易商に化けるとか、或いは忍び込むことは難しい。
「いくつかの場面ごとに戦略を練ってみた」
皆が息をのむ。
ここは、跳ね橋のある宿場町。
その馬小屋の藁の上...。
なんでまた、馬の糞臭いとこに居るのか。
金が底を突いた。
帝国の姫だっていう金庫をもってしても、だ。
聖都に入らんことには、両替商にて“金粒幣”を白金貨や銀貨へ交換してもらえない。
交易商の下へ行っても...たぶん、足元を見られるだろう。
「だが、悉く...禿げる」
ハゲ、る?!
師匠のてっぺんが!!!?
殴られた。
◇
理由は単純だ。
うっうう...あたしの頭頂部に瘤が出来てる。
師匠曰く、普通の方法では無理だとのこと。
この普通には、常人の考える荒事も含まれる。
師匠の常識ってひとつレベルが違うんだよなあ、毎度。
「なんか言ったか?」
「いえ、...別に」
藁の上をすべるようにミロムさんの傍へ寄る。
悪戯されるなら、ちょい変態だけど、ややまもとな変態のミロムさんがいい。
「公認交易商を買収するにしても、今の我々の資金力では、足元を見られ破綻する。いや、潤沢な資金があっても結果は同じでは無いかと、俺は推測した!!」
ああ、そんな当たり前のことを。
「お兄さまが懸念されている頃合いというのは、今なのですよね?」
そう。
贋金騒動を引き起こすなら、
国内政治が聖都内でも機能していない“今”が絶好のチャンスと言える。
純金ではない事は、両替商と造幣商だけとなる。
国から厳しい沙汰を貰って営業してるけど、一部国営事業みたいなトコはあった。
あ、この知識は師匠から。
師匠いわく、出来立てホヤホヤの銀貨を数枚ちょろまかして、親父さんに殴られたんだとか。
う、うん? これ要らない情報じゃん...
「俺が楽してカネをちょろまかすなら、今だな!」
っサイテー
師匠の拳が振り上げられる。
それを見て、あたしの身体は喜びに打ち震え...え?
いやいや、そこは恐怖で震えて...ん?
TKBが立ってる?
「ほ~ら~、ここくすぐったいよね~♪」
...っ
ミロムさんか。
あたしの感覚が変になったのかと思ったじゃんよ。
「こほん、話をしばらく聞いてましたが...要は、聖都に入れれば宜しいのですよね?」
と、後輩が割って入ってきた。
黙って聞いてたら埒が明かないと思ったようだ。
「聖職者の姿の方が、似合ってたんだがな?」
師匠は一言多い。
「当方も、修道服が気に入ってましたが、本職としてこちらの軽装鎧の方も存外、嫌いではないんですの。返り血を浴び過ぎて“紅い修道女”の二つ名を連想させてしまうのが、厄介なんですけど」
そう、後輩は近接格闘が得意な魔法使い。
あーえっと、魔法の殆どが格闘術に寄ってて、敵に回すとこの上なく厄介なんだ。
「では、案を聞こうか?」