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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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そうだ! 聖国へ行こう 10

 聖国の豪商にして古狸と揶揄されるのが、

 オークニー商会の会長だ。


 一握りの小麦から一代で財を成した大人物。

 というのが、人々が好む“一代記”のストーリーではあるんだけど。

 彼は、地方代官の庶子だった。

 どこの世界でも、いやどんな社会でも役人とはいえ、嫡出子が絶対という約束事を曲げることはできない。父はとにかく内でも、外でも“子”をつくるのが当たり前となり、母はいかなる素性の子であろうとも“()”のために引き取り、育てることに躊躇はしない――それが当たり前なのが、財を成した者の仕事なのだ。


 さても、オークニー商会の会長さんなんだけど、彼の“一代記”は真っ赤な嘘で出来上がってた。

 それは出自からも分かるように、地方代官の庶子からの這いあがり方でも。



 彼の家には、正妻が産み落とした息子がふたり、認められた妾として家にあった“女”ふたりから一人づつの男子があって、4人の兄があった。末っ子である彼とはおよそ5つ歳の離れた、兄弟という事になるんだけど。

 庶子への風当たりは強い。

 父の認知があって、子供だけ家に入ることが許される時代。

 産みの母より育て母を敬えと言う社会。


 子供には残酷なルールだと思う。

 末弟の彼を仮に“ユリウス”と名付けよう。

 オークニー氏にはちゃんと名があるけど、あたしが親しくないので知らんし。

 これってそんなに長くひっぱるような話でもないし。




 ユリウスにとって都合がよかったのは、聖国と国境線が重なってた地方領“リ・ビート”荘で、流行り病が発生したことだ。この病は、栄養不足からくるものだったけど...この時期に農奴たちが果物を摂取できることは稀だ。

 しかも、森に自生している果物では、糖度などに偏りがあった。

 “リ・ビート”領での栽培果実は“甘栗”の産地。

 森から栗の樹を植樹し直しているものだから、猶のこと庶民に手が伸ばしにくかったものだ。

 で、彼は一計を立てる。

「兄には、ここでご退場願おう」と。


 ユリウスの直ぐ上、4番目の兄とは仲が良かったが。

 妾の女が良くなかった。

 まあ、医学書を読み漁った彼の計画は“毒殺”に至る。

 4番目、3番目と順調に病没させたあたりで...銀色の仮面を身に着けた、如何にもヤバそうな連中の目に止まる。高い襟に返しがある袖通しの外套を肩にかけ、軍刀を腰に提げた――いかにも軍人という物騒な連中。

 顔での素性は分からないけど、

 身分や職業は手に取るようにわかる。


 ああ、これはヤバイなあ。

「見事な手腕だ。ここで上り詰めても、父親の世襲程度で終わるのは...実に勿体ない」

 見ていたように語られた。

 軍服は洗練されたデザイン。

 ウエストまでの短い丈が気になるところだけど、腰の帯紐が鮮やかだ。

 帯紐の下には、鞣した幅広な皮のベルトがある。

 舶来の短銃が2挺、帯刀する軍刀、投擲にも利用するナイフが4本が仕込まれてた。

「ふふ、よく見ている」

 ユリウスの背は相変わらずだけど、そこそこの青年には至ってた。

「――っ、我らの組織はかつて“騎士”が13人で興した()()()()()()()()を与えることを目的としていた。だが、世界は広い!!」

 青年は頷く。

 まあ当たり前すぎて、路地裏だってことも忘れてる。

 しかも、地方領だってアンダーな部分はそれ相応に危険な香りがする。

「“騎士”が13人...数が足りなさすぎる。故に、騎士団の教義が理解できる者を集め、導き、そして下部組織の長老マスターへと育てる。そこで、相談だ...君のような聡しい若者が卑しくも、兄殺し並びに、継母の殺害までもの罪を被ることは果たして正当なのだろうか?」

 一寸では意味不明だった。

 確かに毒殺を実行したのはユリウス自身ではある。

 継母だって事故に見せかけてはいたのだけど。

「ふむ、まだ全体が見えにくいか」

 彼を軽々と、軍人然とした者は抱えた。

 背が低すぎて物理的に見えにくかったわけではない。

 抱えあげられて見えたのは、頭の中に流れ込んできた己も這いずり回る舞台装置の俯瞰図だ。

「どうだね?」


「どう...」

 長兄が、自分の足場を固めようとする策略のすべてだ。

 医学書を読み漁れるように書庫の鍵に細工している次兄の姿――。

 殺害にまで至るような継母たちの仕打ちなど。


 これはレールだ。


「そう、レールだ。だが、君の犯行は稚拙ではなかった。本妻の子らは、落ち度のない君に対して逆に危機感を募らせている...故に、だ。この場にて君の暗殺か、或いは捕縛という無粋な手段を採ったわけだ。で、今一度...我らは少年、ユリウス・オークニーに問う! 騎士団の傍らにて輝く4つの宝石、紫水晶アメジストにてグランドマスターを目指してみないか?」

 これは勧誘。

 そして、半世紀を賭けて長老になった男の物語である。

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