そうだ! 聖国へ行こう 8
“金脈”の長は、若い男だ。
傭兵ギルドの統括者でもあり、娼館の経営者でもある。
彼と頻繁に会っているのが、例の三人で。
彼の部下となる者は、商人だった。
冷めた眼差しで、金貨を見る。
篝火の灯で色づく金は、女性のようだ。
「最初の攻撃では、惜しみなく使え!」
男の言葉に反発するように、
「最初の攻撃だと?!」
「ああ...名だたる交易商人には“声”をかけてある。聖国のTOPが決定する前に、事を起こす必要がある。そのために選定会議では、話の通じた枢機卿らに粘るよう、指示しておいた。これも、絵を描いておられるのは団主殿だ、な」
金脈の長は、仲介に徹したに過ぎない。
また、彼の意を汲んで動いている派閥のメンバーも数人あった。
この場に呼ばれた者たちは――
「そこまで根回しを?」
「無論、打診した時に動いてくれていれば、俺が自ら動くことはなかった案件もある」
金貨の詰まった木箱が、男たちの背後に積まれた。
振り向くと、傭兵の姿。
なんの疑いを持たなければ...この木箱で暴れてこいという指示にも感じる。
だが、この場にあった小太りの小物たちには、額面通りに受け取れなかった。
冷めた長の表情に凍り付いてたから。
「俺としちゃあなあ、組織の全体の利益の為に、自発的な働きってのを期待してるんだ。自己の利益追求なんざ、組織が潤えば必然的に転がり込んでくるもんだ。いや、もっと単純に考えてもいい!! 団主は、あがりの1割、2割くらい懐に入れてもいいという考えだ。その代わり、俺たち“金脈”はアメジストの隆盛に貢献すること!」
――だろ?って続く。
人差し指で、眉をなぞり、こめかみでねじる。
彼の癖。
「それも出来ないとなると、俺は...どうしたらいいんだろうなあ?」
裏切者がある。
三人組から、傭兵ギルドの長でもある“金脈”の長に告げられたこと。
今、集められた会派の部下10名弱。
聖国の各地方で、豪商としての地位を固めた交易商人である。
替えは利く。
が、一度、組織の歯車に取り込まれた者たちだから、ただ解任という訳にはいかない。
「え、あ?! いえいえ...私どもは“オークニー”会長に」
って、言い訳した小物が絶叫を上げて切り殺された。
「知ってますよ。あの長老には、私から唆すよう依頼したんです...聖国の駄犬が、効きにくい鼻をすんすん鳴らしているようだから、市場の操作があるようだと匂わせてほしいと」
小首を捻ってみせた。
退路を阻まれた小物の会派たちは、取り乱す。
その中で、やや冷めた視線を向ける商人があった――「お初にお目にかかります、あなたが聖国の忠犬...イーヴィー准男爵閣下とお見受けいたします、が宜しいでしょうか?」――と、優男が礼を尽くす。
その所作には品があった。
恐らくは高等な教育を受けた感がある。
「肯定は成されない? おひとりで嗅ぎまわってたその豪胆ぶりには、一応の評価をしていたのですが」
「いや、貴兄の所作に見惚れていただけです」
准男爵といっても、厳密には爵位として認められない。
階級というよりも、称号にちかいだろう。
「それは...素直に礼を述べましょう、そして...さようならです」
◆
あたしたちは次に立ち寄った、街道の村“サンタル”の冒険者ギルドで、ある人物の訃報を聞く。
ラグナル聖国の英雄“イーヴィー准男爵”の水死体である。
「どんな人?」
あたしの問いに、師匠が爪を甘噛みしながら...
「高潔な人物だったよ。平民出身で聖国の会派に入らない身で、国家に尽くした...俺と同じ貧乏人」
師匠曰く、貧乏人ほど早くいく...
つまり、貧乏人はいい人間だといいたいらしい。
師匠は違うと思う。