そうだ! 聖国へ行こう 7
昨晩の疲れがまだ抜けない。
一方、ミロムさんのすっきりした表情と、よく眠れましたっていう後輩。
ヒルダに至ってたは、食事に出たウサギ料理は“村”とは思えない豪華でしたという、話。
あたしひとりが乾パンと、ミルクだけですか。
天然エルフの村とされるその場所で、一応、歓待はされたけどさ。
狩ってきたというウサギも、実のところ聞き間違いで。
買ってきたという...市場で。
そりゃ、そうか。
今時、森に棲むエルフの方が珍しい。
森を出てエルフが都会で棲むようになって、早、6世紀。
世界の半分を掌握した大帝国が滅んで4世紀――あの帝国に飼い慣らされたエルフたちが、都会の甘さを知ったんだ。戻れるわけがない、自分たちを“貧しい者”と認識してしまったのだから。
そうやって、人々の意識は徐々に変えられた。
帝国最後の宰相は...
暗黒卿とかいや、黒塗された文献が多くて殆ど読めないんだっけ。
ま、その宰相のお陰様で、エルフはみんな背徳者に成りました。
嗤えねえ。
それは世界を時代を呪いすぎてる。
あたしの領分じゃあ、ないな。
「どうした塞ぎこんで?」
ヒルダさんがあたしの手を取る。
そのまま、干し肉を載せてきた。
「宿屋で売ってた...目が虚ろなお前にくれてやろう!!」
恵んでやろうとも聞こえた。
ああ、彼女はドーセットの姫さんだから――普通なら、いや、いささか自分に少しばかりのプライドがあれば、だ。その手を払い除けて「あたしは、恵んでもらう立場ではない!!」なんて言えたのだろうけども。
条件反射というのは怖い。
「ありがとう、ヒルダ♪」
って、微笑んでたみたい。
あたしの中に、あたしという壁は無い。
地べた這いつくばって、泥水すすって“王冠”のために身を粉にして...
あれ?
頬にみ、みず?
「ほら、どうしたセルコット!!」
ヒルダさんがあたしをハグしてきた。
みんなに、泣いてるあたしを見せないために。
「この村、も、もう嫌だ」
「そうか、そうか...普段から気を張ってないようだが、お前にも堰はあったんだな」
あたりまえだ、バカ。
言葉には乗せなかったけど、通じたと思う。
うーん。
馬車ではヒルダに、こねくり回された。
ヒルダに弄ばれるあたしを見てるミロムさんの顔は、昨晩のように見えるし。
間に入りたがってる後輩も...なんか、可愛い。
ああ、あれも...
そんな顔をするんですねえ。
「お前も欲しがりさんみたいな顔だったぞ」
ヒルダは余計なことを。
旅は再び、はじまった。
◆
聖国を根城にしている、秘密結社の下部組織は“金脈”という。
彼らの目的は明らかだ。
富の集中いや、掌握と考えるのが分かりやすい。
暴力とも類似した資金力で、国一つさえ狂わせられる。
「これが流通させる金貨か?」
小太りの男たちが各々、その金貨をひとつまみ。
重い、そして柔らかい。
財布から同じ金貨を出して、顔をしかめる。
「これは純金だな?!」
「ああ、如何にも。重さは未だ試行錯誤ではあるが、この国で流通している聖国白金貨を偽物に陥れる!」
記念硬貨じゃないから、流通量は確かにある。
膨大な銅貨や銀貨に比べれば少ないけど。
流通経済には大打撃になるだろう。
分かりやすく言えば、交易商人が扱う大量の日用品に跳ね返る――おそらくは信用の失った時点で、今までの常識が壊れるということ。
「それは...」
「白金貨といえど金貨だから“紙”などには成らぬ。ただし、銀貨1000枚との今の価値観は書き換えられるだろう。まあ、そうだなあ...半分で踏ん張ったら拍手してやろう」