港街の悪い人たち 3
貴重な材料ですよと、アピールを受けたあたしは――教区長の手中に落ちたように見せかけている。
ああ確か似たことあった、な。
後輩のガキと一緒に盗賊の住処を壊滅させた、アレ。
そうそう、アレもあたしが囮になって――舶来のナーロッパ童話よろしく、パン屑を道標に、討伐隊へ知らせたっけかな。後輩のやつ『これは生娘ですから、今から楽しみなウフフフなことし放題ですよ』とか...。
ま、生娘は今でもそうだけど。
売り込みのセールストークがマジ怖えんだよ。
本気かなとか...思うじゃん。
で、あたしが一人寂しく...ま、ちょっと弄ってるところへ。
「まーた、寂しくなって半べそかいてる」
って、天窓から覗いてくる。
お! やっと、きた。
「半べそ...か、かいてない」
「忠告無視されて、床...ですか。かわいそうに」
憐れんでくれるようなそぶりも見せつつ、
「ま、それでも...ソレ、縫い目でスジ擦るの辛いでしょ」
ってわざと小悪魔的に言う、後輩の舌が恋しい。
天窓から薄暗い部屋を覗き込んでるだけで...よく分かったな。
ああ、すっごい辛い。
爪でかかる程度の擦れで、さ。
ヒダに触れるかくらいの摩擦しか...
「って!!!」
「はいはい。恋しかったんだよね、共感だけしてあげます」
ああ、ぅ、淡泊。
「おい! キサマ、誰と話し」
扉番をしてた男がへやに入るなり、後輩は彼を着地マットに使ってた。
勿論、その後は綺麗に首の骨を折る。
惨い。
「そっちの共感はしなくていいです。もっとポジティブに考えましょう! 彼らは村はずれに居を構えた、盗賊の集団と同じだと...そうすれば殺人も、何も知らない人たちの“益”となり、世の中の幾分かは掃除できたと思えばいいのです」
おお。
なんと立派なセリフだ。
あたしも大概に苦労人だと思ってたけど...
「先輩の苦労は、別次元です。当方のは、極めて一般的なので比較対象にしないでください」
あれ、これ怒られた?
「いえ、怒ってません。ただ、」
あたしが閉じ込められてたのは、はなれだった。
教区長らが用意してたのは灯台を兼ねる騎士団の施設。
王国が設置した監視塔だった。
海から招かれざる客、或いは海賊の襲来などの監視を行っている。
その施設の倉庫に一時保管。
と、いう事で。
あたしは荷物だってもことだ。
泣いていいですか。
「泣くのは後に」
気が付いた兵士がアタシの方へ。
身ぐるみ剝がされて、武器のない平民みたいな服着せられ...
「魔法、騒ぎが多くなるので」
突き飛ばされてた。
お、こ、後輩...
千鳥足みたいに、トットトッのステップを踏みつつ、兵士の前へ。
兵士の方は、今にも倒れそうに歩く平民女を支えるように腕を広げてた。
そこへ一跳躍で飛び込んできた、修道女の刺殺される。
思い出した、こいつが“紅の修道女”だって呼ばれる謂れ。
こいつが現れると、辺りが血の海に成るんだった。
その中に佇む修道女。
後輩に促されるまま、死体を家屋の影に隠す。
「こ、黒装束らの正体は、検討ついてる?」
根城を調べるための囮だけとは思いたくない。
後輩は、手持ちのナイフをあたしに寄こしながら、
「組織の全貌を解き明かしたわけではないので、はっきりしたことは言えません。ただし彼らは末端、油断しているであろう時分に漁ってはみたものの...」
組織名は“アメジスト”、叡智を求める使徒だとするが、遣える神の名が何処にも記されていない。口に出すのも、記録に残すことも憚れるという趣旨か、いや、今の段階では何も分からないという。
「で、先輩の方は?」
後輩は、あたしの首筋や、肩、腰に腹とか念入りに見てくる。
触診もして...
なんか、ちょっとエロい。
「や、くすぐ..」
「やっぱり、腕か」
あたしの残念そうな表情は見えてないんだろうなあ。
もうちょっと密着してたかったなあ。
「この傷は痕になりますから...回復魔法で治しておきますね!」
後輩から怒気めいたものが感じられる。
言の葉からは優しがあるけど。
態度の中に怒りを感じて...どうした、おまえ?
「あ、そうだ...冒険者は?!」