そうだ! 聖国へ行こう 5
森の泉はこちらって...
看板が立つ珍しい村――もとい、天然エルフが月夜にはわらわらと、だ。
森の奥から這い出てきて...。
茂みにて、ひっそり声を潜めた観光客が、だ。
エルフの沐浴を覗くのだという。
ああ、新しい観光財源。
いや、ちょっとまてー!!!
「ちょ、静かに」
エルフ仲間に泉へ浸かるよう促された。
あ、今、あたしも見られるパンダ側に立ってる。
どーしてこうなった?!
◇
少し話を戻そう。
数刻前のこと。
森の中を彷徨ってたら、たまたま仕事帰りのエルフたちと鉢合わせになった。
聞けば、野兎の狩を終えた後だという。
ふむ...健全ですね。
「横長耳族とは珍しい!」
って、流暢すぎる共通語を話せるエルフだった。
共通語というのは、超大陸のリーズ王国とドーセット帝国間でつかってる言葉のこと。
もっとも、あの国が中心とも限らないと思うけど。
「結構、古い呼び名で言われるとは思いませんでした、えっと...高耳族の方でいいですか?」
横長耳族ってのは、あたしの一族。
まあ、あたしはハーフだけど...耳は、横にやや垂れた感じで、ね。
わりと長い。
形のいい横にピンと張ったエルフが、村で一番の美青年、美女と持て囃された。
あたしは垂れているので、ペット程度。
泣いていい?
「いやあ、その高耳族ってのも最近、聞きませんね。あ、でも...はい、当たりです」
獲物のウサギに矢の痕跡がない。
うむ、魔法で仕留めてるんだろうか。
彼らが村につくと。
顔立ちのいい青年の方々が広場に集められてた。
おや? お祭り...
「あ、いや...こ、これから...も、沐浴に行くんですよ」
沐浴。
水浴びというか風呂、あ、いや銭湯にでも行くような感じの気の軽いもんだけど。
そんなに入念に...えっと、美男美女を集める必要が?
「ほ、ほら、儀式のようなもので」
「だったら、狩に行ったお兄さん方の方が、汗を流すために必要なのでは?」
めっちゃ、首を振られて拒否られた。
うーん、大陸が違うとエルフの習慣も変わるという事か。
ま、森の奥でひっそりと隠れているところは、変わらずというか...そういうイメージというのは怖いものだなあと、ね。
「ああ、そうだ!!」
村長を呼びに行く狩人さん。
美男美女を吟味してた老人が、あたしのところにも...
まるで値踏みでもするように...
「この子ノラですけど、この横長の垂れた感じとか。可愛いですよね!!」
ああ、可愛いだなんて。
つい、もじもじする。
「うむ、こうこの腰のラインは合格点じゃな! 乳房は足りないが、下乳から下腹までのラインは艶がある。高耳族の子らは下腹がポッコリしていてマニア受けはしても、一般受けではないからのう。飛び入りじゃが、ワシは認めるぞ...お前の眼力を!!!!」
だって。
え、何?!!
◇
それで、こうなった。
観光客に魅せるためのエルフ資源。
エルフが珍しいことはない。
けど...
そう。
原始的な暮らしをしている“森の賢人”としてのエルフは希少性がある。
確かに、エルフは決して人口が多い方ではない。
長寿で不老、このワードの強さが枷にも呪いにもなってる。
子供が埋める適齢期も100歳以上経ってからだし。
と、いうわけで!
今、ここの泉で沐浴している...
いや、観光財源だと割り切って魅せているエルフたちは未成年である。
ここに来てくれるな、ミロムさん。