そうだ! 聖国へ行こう 1
和服男こと、アグラは聖都の中を散策してた。
散策は、この男の趣味のようなものだ。
街の様子、人の様子から国の顔めいたものが見えるという。
街の治安が悪くても、希望に満ち溢れた人々の営み次第では、なかなか折れない強固な国であると評価ができるといえる。逆もまた然り...結局のところ、市民・民衆の力なくして語れぬというのが、この男の持論だ。
さて、アグラは下町へ足を向ける。
装いからは判別は難しいけど、彼は一級の剣士だ。
空気が一瞬で変わったことに察知してた――路地からぞろりと現れるゴロツキども。
「やあ、異人殿」
声を掛けてきたのは見覚えがない。
が、歩様からはなんとなく覚えがある気がした。
「どこの暗殺者だ?」
「いいねえ、察しがいい。ついでに思い出して貰おうか!? うちの若い奴を屠ったってのをよぉ!!」
人斬りが、斬り伏せた者の名と、顔を覚えていることは稀だ。
仮に覚えてたとすると、死者に纏わり憑かれて果てには、死を迎えるのが自分になるだけ。
生きていたいのであれば、とっと忘却することだと師から教わる。
人斬りも結局は、暗殺者なのだから。
「知らん」
ま、そういう事だ。
戦端は、わりと簡単に切られる。
それはいわゆる『野郎ども、やっちまえ!!』なんてべたな台詞を要しない。
きわめて単純な所作。
アグラの『知らん』で始められた。
「プロは、こうでなくちゃなあ」
振り下ろす扇は、鉄製。
重さは300グラムほどあった。
仕込む者ならば、手持ちの扇にも刃を与えるようだけど。
それでは鈍器にならない。
「ぴぃ~!!」
叫びにもならない声で鳴く、ゴロツキたち。
アグラ曰く、
『刀で切られるのと、殴られるのとじゃあ、生死はだいぶ違うもんだと思わないか?』
暗殺者に問うてた。
彼らにすれば、会敵必殺を謳っているので、その二撃目もありな考えには賛同しかねた。
「ちぃ、洒落の分からんヤツだ。殺し合いが次も楽しめるんだ!! 命拾いしたんなら、戻ってリベンジをって話だよ!」
それでも首を振られた。
「我らの教義に、会敵必殺以外の答えは無い!...あきらめろ、このサイコパスが」
暗殺者のセリフが路地に響いた。
◆
さて、あたしたちの方なんだけど。
「師匠はこのあとどうするん?」
依頼は達成したことになるわけだから、また貧乏人に。
「もどる訳なかろう!」
って、額を小突かれた。
これがわりと痛い。
「えー」
「えーじゃない!」
あたしは、ヒルダの方へ視線を向けた。
この子たちもどこへ。
「こっち見るな! ああ、もう。そんな寂しそうな目で見られたら......」
ヒルダが海兵隊の方へ視線を向けた。
彼らは領事館の守備部隊だし。
でも、彼らは首を横に振った。
「大所帯になりますが、一緒に行動させてください」
だって。
「でも、どこに?」
あたしの問い。
「何言ってんのよ、秘密結社を追ってたんだから聖都でしょ。ラグナル聖国に行くよ」
ミロムさんに腕を引かれた。
司教さまと聖堂騎士団らとは、一旦離れることになった。
当然と言えば当然だよね。
だって相手は、別の教義の国だしね。
「では、ご武運を」