ぶらり、貧乏人の旅 4
二重底の財布からは、偽金貨が出てきた。
「これって......」
あたしは、皆に見えるように腕を突き出し、
司教さまがむぅ~って唸ってくれた。
「ラグナル聖国の金貨のようですね」
で、まだ存命している男へ視線が流れる。
彼の処遇が残ってるんだけど...
その前に、だ。
「この金貨はなんだ?」
明らかに偽物だと分かる、稚拙なつくり。
金貨の製造には、各国ともに神経削ってるところがある。
作り過ぎると、金貨としてだけでなく“金”の価値を大きく下げることになるし、流通量が著しく少なくなると、それ以外の貨幣価値が下がり市場にだぶつくようになる。つまり経済に大きく影を落とすことになる。
故に、マーケットに設置される国家公認の“両替商”ってのが信用のあるうちに回収したり、ばらまいたりして調整しているのだという。
これ、貧乏人の師匠からの受け売り。
「見たまんまだよ」
ちょっと見ないうちに、フルボッコにされたように顔が腫れ上がってる。
後輩なんかは「誰です、この人」扱いだし。
司教さまも「治療には神への寄進が必要不可欠」とか...無理やり寄付を迫る始末。
どっちが守銭奴なんですかねえ。
「わりぃ、言い方かえるわ」
男の顔がまた、一段と腫れた気がする。
これが師匠の見えない張り手。
あ! あれなんだ!!!
って、使いふるされた視線誘導術を用いて、気が散らされた隙に...
そうやって男は、師匠にだけ必要以上の情報を騙ってた。
「その金貨でひと騒動、起こす手はずだった」
“口”の仕事割は、扇動である。
人々に不安を植え付けて、煽りに煽った挙句にコンバートル王国のような、国家の屋台骨を挫くに行くのだ。
そして、聖国はすでに教皇猊下が暗殺されてた。
「ふむ、しくじった弟子の尻ぬぐいか」
ちらちら師匠が、あたしの臀部を見てくる。
で、ため息。
「腰はこう、ばばーんと張ってないと! つまり、そこのリーズの次期剣術指南のようなのを女らしさというのだ!! 見習って安産型になれ我が不肖なる弟子よ」
「ほわ?!」
ミロムさんが、セクハラですと割って入らなかったら...
ヒルダが殴りに飛び出してたかもしれない。
ま、なんだかんだで。
みんな、あたしのこと気にかけてるんだろうなあ。
◆
ラグナル聖国では、教皇選出密会なるものが開催してた。
聖国における教皇は、宗教の最高指導者であるとともに国家元首でもある。
聖都市民100万人の生活を導く王なのだ。
故に、いつまでも王が不在というわけにはいかない。
教皇選出密会内では、陶片選挙が行われている。
票決に至れば、教皇旗が半旗から上へ掲揚されるのだという。
ま、1回や2回で決まった試しがないのは、有名な話。
聖国の傭兵ギルドは繁忙期に入ったようだ。
ギルドの受付嬢がひっきりなしに、飛び込んでくる案件ってのを捌いてた。
その様子を燕尾服の少女が目撃している。
「聖都にあるギルドは4、5か所。そのすべてで人が目まぐるしく動いてますね」
部屋に戻るなり、彼女は少年にそう告げた。
少年の耳には同じことが、和服男からも同じことが告げられてた。
まあ、知ってたんだけど...
少女を凹ませないよう。
「面白い情報をありがとう」
と、頭を撫でてた。
少女は猫のように鳴いたんだわ。