ぶらり、貧乏人の旅 2
待たせている気はない。
秘密結社の構成員ふたりとは、師匠が何度も睨みを利かせて動きを封じてた。
あたしにはまだ、そんなことはできない。
やろうとしたら...
えっと、ドライアイになったんだわ。
睨むと...どうも、嗤ってしまう。
「ほら、セルコットに皺は似合わない」
って、ミロムさんが過保護にも額の皺を伸ばしてくれる。
うん。
彼女の胸があたしの目の前にあって...
いい匂いがする。
「ったくだらしのない弟子だ! ...ヒルダ!!」
「はい、兄さま。妹はここに!!!!!!」
精一杯、元気な声を張り上げた。
ここは戦場なので、そんな空回りな元気は必要ない。
けど、久しぶりの兄妹再会なので...
「お前は、海兵隊とともに司教と修道女を守れ」
「え?!」
「...何だ?」
「いえ、当方も戦いに参加...では?」
リフト・ローゼンは明らかに落胆したように。
細く吸った息を深く吐いた後。
「お前のはロムジー元帥の、何でも力技で吹き飛ばす事で解決する“その後、何も残さない剣”だ。暗殺という繊細で芸術のような繊細さもない軍用には全く用がない! 故にお前は留守番で丁度いいのだ。...だから、我が弟子よ、早く来い!!!」
語尾が強い。
てか、妹への辺りも強くて――ヒルダが、
「いい。こっちは守りに徹するから...兄さまを助けてきて」
って、送り出された。
でも...
これは伏在な気分だよ?
◇
守るって言っても、ゴロツキの方は3分の1はすでに再起不能になってるし。
師匠のせいでだけど。
「なんか言ったか?」
「いえ」
ミロムさんもヒルダの脇に立って、円陣を組んでた。
まあ、殆ど逃げちゃってつけどね。
「さて、大人しく投降するか?」
「なんで、こうなった!!!」
師匠曰く。
秘密結社の構成員を正確に指さしながら、
「お前らが無駄な殺しをしたからだ」
ん?
「ここは秘密結社のアジトだったんだろう。他の村とは建て方に規則性を感じる...都市の近くの農村というカモフラージュで柵が無いように見えるが...それが逆に気持ちが悪い」
えっと...師匠。
それはあ、感情ですか?
「んな訳、あるかバカ弟子が!!! 穀物庫などの長屋が外向きに四方に配置されて、警鐘を伝える櫓が村の中央にある...あれは物見やぐらか?!」
倉庫にみえる長屋が兵舎を兼ねて。
同じ拮抗した勢力同士であれば、この村は砦になっていただろう。
そういう話を師匠はしてた。
「傭兵にはそう見えるかい?」
秘密結社の構成員は、構えてた剣を放り投げて...
両手を上げることになる。
「いや、俺はただの貧乏人だ」
う、うんん???
「び、貧乏?」
「だから先に言っただろう。お前たちは無駄な殺しをし過ぎたと...」
彼らを追った理由は賞金首になったからだ。
というか、血まみれの革袋を死の間際に、リフト・ローゼンへ託した村長の遺言。
「――必ず、村人の仇を取ってくれと、な」
この言葉でようやく合点がいく。
いや、
いやいや、師匠がはした金で動くとは...
「弟子さあ、俺をなんだと思ってるんだよ」
「えっと...貧乏、人...ですか?」
「そうだよ、貧乏人は金が欲しいんだ!」
実家に『寄こせハゲ!』って連絡すれば、路銀くらいはって思う。
でも、師匠から頬を叩かれた。
鼻血とともに口の中を斬ったっぽい。
「そんな恥ずかしい真似できっか! 先月、催促して借りたんだ...ドッグレースで10倍返しでもしないと、俺様の名に瑕がつくわ!!!」
ああ...借りてたんだ。