ぶらり、貧乏人の旅 1
帝国式軍用七法にも体術はある。
あるけど、師匠の掲げる第八ノ術とは根本的に違うところがあった。
とにかく地味。
すっごい地味。
糞なほど地味。
帝国式とは絶対、相容れない。
派手じゃないから。
◇
例えば、先の数分前のように。
背中から迫ってきた暴漢に対して、裏拳で鼻の根を陥没にまで追い込む。
(...ヒルダなら、振り向きざまに叩き伏せてたと思うよ。その斬撃、空間をも断絶するとか、形容されでもしてド派手な衝撃波で民家の数軒は巻き込まれただろう。これが、帝国式の派手さで、悪いところ。
裏拳の打撃を受けた、賊は呼吸困難に陥る。
師匠の攻撃はそう、つまり戦意を削ぐことに重きがおかれてた。
だから、つま先を踏み抜かれたブーツの中は、もうぐちゃぐちゃになった。
おそらく血だまりが出来てるんで...
増水した小川に足を突っ込んだ時の不快感があると思うんだわ。
エグいと言えばエグい。
けど...それ以上の追撃は必要ない。
だって、そこまでされたら。
普通は心が挫かれる。
◇
「さて、未だ...やるか?!」
師匠が睨みを利かす。
ゴロツキたちもさ、野生の勘めいたもんはあるんだよ。
で、なければ生き残れないでしょ。
だから、ちょっとづつ引いてた。
ここでお約束なのが、雇い主の反応。
「引くな! 逃げるな!! こっちは高い金を払ってるんだ!!!!」
だって。
うわあ、それフラグじゃないすか......
「だってよ? 不詳の弟子!」
かも~んとか手招きされた。
最初は、師匠に何か言い訳めいたものを告げようと思ったんだけど。
そうだなあ。
ちょっと目を逸らしてたんだわ。
ミロムさんから鋭い疑いの目が向けられてたから、かな。
「おい! バカ弟子!!」
「は、はい!」
バカ弟子なんてよく言われたもんで、条件反射で返事しちゃう。
これが脊髄反射というのだろう。
「お兄さまぁ!!」
おっと、ヒルダさんも食いついていたぞ。
まあ、皇籍から抜けたとしても血の繋がった兄妹だから、ねえ。
思うところは、
「あ、おまえはいい」
ぴしゃりと、止める。
おいおい、師匠?
「ほら、来いバカ弟子!」
あー、はいはい
「返事は一回でいい」
えー。
◆
えっと。
この状況についてもう一度、確認しよう。
秘密結社“アメジスト”の口によって占拠された村には、生活感がない。
推測だけど、村人はもう。
確認された敵勢力は、ゴロツキなどの100人前後。
手練れと思しき構成員の2名ってところ。
かつて、皇位継承権第三位だった師匠、いや...リスカート皇子がなんやかんやで賊の方を削ってくれちゃって登場した。
都合がいいといえば、そりゃ確かに。
でもねえ、師匠から言わせると――
邪魔になる悪漢を始末してたら、ガチャガチャ金属の擦れる音が聞こえた。
こんな廃村みたいなとこに何処のバカが来たんだと、物見遊山の積りもあって音のする方へと寄って行ったら――こんな状況に遭遇したんだという。
ま、
あたしの気配を知って、ちょっとイラっと来たらしいんだけど。
えーですわ。
「えーって嘆きたくなるのは、俺の方だよ。弟子がいるのにこんな大勢で!?」