新王と市民軍 王都灰燼 24
村の中に物音ひとつ立てずに潜入することは出来た。
例えば、あたしが一人でとか。
或いは、少数精鋭で襲撃人数を絞ってれば。
でも。
あたしの号令のもとに動いたのは...
神殿騎士と、聖堂騎士団、ドーセット帝国海兵隊にセルコットさんと凸凹ご一行。
訳も分からずついてきた司教さん。
いや、大所帯過ぎる。
いやいや...
ここまで乗り込んだら、絶対にバレるって。
リストのふたりは逃がしちゃダメなんだってば!!
◆
舌打ちしながら、扉の前に男が立つ。
「心地よい殺気をありがとうなあ」
って、ズボンがひざ下まで下がってますが?!
部屋の奥から漏れた光で、そ...その..さ、竿が、モロ見えで。
「いけない!!」
司教さまは咄嗟に、後輩の修道女の目を手で覆った。
お! 流石、聖職者。
「ちょ、司教さま!! み、みえません」
おまえは自重しろ。
あたしの目の前も何かで覆われた。
あ、これ布?
「セルコットに変なもん見せるな!!!!」
怒ったミロムさんが飛び出してる。
「はい、バカはっけ~ん」
ズボンを履く男と、
ぞろりと獲物を担いで顕れるゴロツキたち。
えっと、ピンチです。
◇
多分、本気出せば戦える...気がする。
サイコロを振ってみた。
「壱」の目が揃って出ることはないけど、数字も大きくはない。
これは...
《なんで出ちゃったのよ!!》
ヒルダから指でわき腹が突かれた。
くの字に仰け反るミロムさん。
《えっと、脊髄反射...?》
《もっと、悪いじゃんよ》
やっぱりセオリー通り、外周に散ってた敵兵をひとりづつ。
と、反省するのは生きてた時に...
「こそこそしないで、オジさんも混ぜてほしいねえ~べっぴんさんたち?」
卑しい笑い声が響く。
ざっと見渡すと数は...
数は?
あれ?
「百人は、じゃいたんじゃ?」
あたしに掛けられた布は、ミロムさんの上着。
彼女は、ノースリーブのシャツにブレストプレートを身に着けてた。
その上着からこっそり顔を出す形で、
「え、あ...あうん。確かに100人いた筈なんだけど」
怖くしてたあたしらに、だ。
「お答えしよう!」
なんて、陽気なスタイルの賊がひとり。
あたしたちからは、死角だったんで。
全く気が付かなかったんだけど。
「師匠/お兄さま!!!」
って、ヒルダとあたしの声が重なった気がする。
賊という割にはまるで貧乏っぽく、精悍な雰囲気があるのにどこかだらしない。
魔法の師がババアであるなら...
近接格闘術の師は、この貧乏人みたいな人物だ。
「お兄さま、なぜ、ここへ?!」
妹のヒルダには一瞥を残し、
まあ、真っ直ぐミロムの背に隠れる、あたしの方へ歩いてきた。
「さて不詳の弟子は、教えたことのひとつも成していないようだが?」
ぐうの音も出ない。
ドーセット帝国元第三皇位継承権だった男――上、3人の男子と比較されることを拒んだ彼は、皇籍からの永久追放された。罪らしい罪は犯していない...ただ、皇帝の期待に応える気が無いと言い放ったのが、罪といえのだとすれば...そうかもしれない。
元の名はリスカート皇子。
平民となった彼は、リフト・ローゼンと名乗っている。
帝国式に属さない第八の軍用格闘術といったところか。
「師匠、これには...」
深い事情がありまして~ とか聞いてくれる雰囲気ではない。
師匠に迫る暴漢は、そよ風のようなもの。
裏拳で鼻の根を陥没させると、つま先をかかとで踏みつぶし。
男の戦意を挫いて見せた。
相変わらずえげつない。