新王と市民軍 王都灰燼 23
市民軍の中身は“月女神の使徒”教会の狂信者たちである。
山賊や傭兵崩れのゴロツキを多く抱える。
相対するは、聖国から派遣されてきた傭兵たち――いや、国王軍だ。
ちょっとはいい勝負が出来るかなあと、思ってた時期が両者にもあった。
でも現実は甘くない。
正面からぶつかったら、1ダース分の首が簡単に飛んでしまったのだ。
脆い...
傭兵たちも怪我はしてるんだけど。
致命傷に至らないかすり傷。
なんと言っても、刃が届かない。
腕を伸ばしたその先の切っ先が、傭兵たちに届いていないのだ。
それもそのはず、市民軍は最初からへっぴり腰だった。
いや、これは彼らに可哀そうか。
最初から逃げ腰だった。
当たってどうにかなるとは思っていない。
ちょっとは手加減してくれるよね?
ほら、同じ団主に仕える仲間同士じゃないかって――使徒たち側が勝手に思い込んでた。
でも、そんな夢想はどこにもなく。
聖国の傭兵たちに蹂躙されていくのだ。
これは一方的な蹂躙である。
秘密結社側からすれば、体のいい口封じで。
逃げる教祖が「キサマら! よくも裏切ったなー!!!」って叫んでたけど。
喧噪でかき消された模様...
ま、後の祭りってことなのだろう。
◆
あたしたちは、司教の降霊術により王都郊外の農村へ歩を向けた。
穀物倉庫が二棟建ち、麦畑をそれぞれ仕切る柵のある小さな村。
家屋の方は、奥の大きな屋敷以外に6軒ほどだから、4人家族だとすると...約24~30人前後。
屋敷の方はもう少し人がいるとみて、村の総人口は100人未満だろうか。
「遅い!」
奥の屋敷から灯が漏れる。
扉が開かれ、人影が見えた。
「扉を締めろ! 中の光が漏れる」
屋敷から二人目の声が聞こえた。
あたしの代わりに、ミロムが“エネミーサーチ”で探った。
何で自分でしないのか...
もちろんスキルの多重使用により、なが~いクールタイムのペナルティを食らってるからだけど。
そこら辺は上手く、オブラートに包み...
「ごめんねえ、あたしが索敵出来ればいいんだけど...精度が低くて~」
これは、もちろん嘘。
噓だってことは、後輩からの刺す視線でバレバレだ。
「セルコットには期待してないさ」
あ、ありがとう。
ヒルダさんのハラスメント紛いな言葉で救われたわ。
「だって、サーチしたら...
敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意
...って、頭んなかに流れ込んできて苦労したんだろ?」
あ、ああ。
えー、まあ、そうなんですけどね。
ミロムさんが人差し指を上げる。
たぶん静かにって合図だろう。
「敵の強弱までは掴み切れないけど、手練れが何人かいる。あとはゴロツキだけど...村の外縁に潜伏いや、見張ってるみたいな。等間隔のようだけど、そのうち何人かは見回りってるような、で。ううん...これ動かれるせいで正確な数が把握できない」
いや、その配置だけでも十分だ。
仲間に悟られぬよう、片目を掌で覆って残りの目でじっと屋敷の方を見た。
集中すれば“金色の~”で使用している限定条件の視覚スキルが使用できる――が、使うたびにドライアイになるのが玉に瑕で...だけど、これの効果は絶大!!
ま、屋敷の中までは分からないけど。
「襲撃かけるなら今かな」
あたしの号令で、動いたわけ。
まあ、...っ。
なんつうか、さ。
みんな、疑わないのな。




