新王と市民軍 王都灰燼 22
市内を流れる川を挟んで東側。
王城が見える小高い丘の方以外は、もはや火の海と化してた。
禁軍から派遣された魔法使いたちによって、都市の行政区だけは火に包まれるのを辛うじて踏みとどまっているように見えるんだけども。自然の力ってのはこう、残酷だよねえって話で――残念ながら、それ以外の地域は紅蓮の業火によって灰へと変わっていってた。
王城の人たちは。
いや、彼らも誤算だったと思うんだが。
架けられた橋を落とす市民も出始める。
理由は分かる。
延焼から、市街の半分を守るためだ。
だけど。
どうしてこうなった――
◇
聖国の“ウイグスリー”商会或いは、協会と呼ばれた大交易商がある。
国家公認の商会であるともに、裏の世界でも名の知れた組織。
正直、手に余る予感しかない。
「そのウイグスリーだっけ、...の商業手形を割符にするのって」
ミロムさんはいつも正しい。
盗品の買取もする商会だから、必ず悪とも考えられない。
ウイグスリーは、誘拐された人々の身代金用立てなども仲介している。
そうした双方の信用を勝ち取るために、あえて裏の世界でも商売してきた実績があるんだけども。
「いや、他の2人も探し出して割符を完成させたら...手がかりが増えるんじゃないかなあ?」
あたしはここでミスをする。
この情報は、ゴロツキふたりから出てきた“商業手形の割符”だけで。
みんなには、リストがあるとは言ってない事だ。
「ちょっと待って、なんで2人?」
そう、ミロムさんに食いつかれた。
いや、うん。
ああ、あたしのばかー
「セルコットにしては計算の早いことだと、感心してたんだ」
「なに?」
なにがでしょう? ヒルダさん。
「いや、割符だよ。これは四等分だから咄嗟ながらによく見ているな、と。違うのか?!」
おお。
マジかー!!
「そ、そう...です、です、です、はい!!」
後輩から突き刺さる視線が痛い。
あの子は疑ってますなあ。
司教とヒルダ、ミロムさんは信じてくれたっぽい。
◇
「ただ、問題がある!」
ヒルダさんは押し殺したように告げる。
戦闘痕には躯のみが散乱し、恐怖した市民はすっかり隠れてしまった。
「こいつらの仲間の行方が分からない!!」
そっか。
王都郊外へは、行きたがってたけどね。
「それならば、このトマトさんを降霊して聞いてみるとしましょう」
聖職者から耳を疑うようなセリフを聞いた気がする。
もう一回、お願いします。
「降霊術は神秘の御業の一つ。別に恥ずかしいことではなく...蘇生魔法と大差はないと思ってください。この場合は、肉体の回復と魂魄の帰還を行わない、というだけの事なので!」
と、修道女らしく後輩が告げた。
なるほど、蘇生魔法か。
あれ、高いんだろうなあ~
「姐さんは、またお金のことですか?!」
あら、後輩には見透かされてるのね。
皆には嗤われたけど。
あたしは、複雑で――
◆
そのころ、ご無沙汰してた珍妙な三人組は...
ラグナル聖国の傭兵ギルドに身を寄せてた。
団主から与えられた手形で、すんなりと奥へ通されたのち。
彼ら三人は、束の間の平穏を満喫してた。
「コンバートルが混乱を取り戻すか...」
「何か?」
燕尾服の少女が傾げてる。
「いや、団主の言葉もそのまま受け取ると、痛い目を見るんだなあって」
王都を出て10日過ぎあたり。
その後の混乱は勿論、彼らは知らないけど。
組織の“目”が馬やハトで知らせてくれる。
とはいえ、どれも後日談なのだけど。
「王子が父を殺すという騒動から...。市民が王族の近親者を害するでは、混乱の度合いが変わってくる。これにより兵の少ない国王軍は、傭兵に頼らざる得なくなる」
「理想的に思えますがね?」
秘密結社にと。
そう、理想的。
ま、平穏は訪れない。