新王と市民軍 王都灰燼 21
「セルコットにしては、決断が早かったみたいだけど?」
あ、うん。
旅芸人の彼に貰ったリストにあった“扇動者”という者と、似た特徴だったので思わず手が出てしまったってだけ。ただ、まあ...後輩はあたしが盗賊狩りをしていた事を知っているから、珍しがっていないけど――「あんたが素手で捻り潰すのは初めて見たけど...この数十年、何があったの?」――なんて不思議そうにミロムさんが問うてくる。
いやあ、詳しくは言いたくないなあ。
だって...
“金色の~”ってのも絡んでくるし。
今は、ポーションで治癒しているけど...
糸目になって「ん? むむむぅ~」とか、バカみたいだけどさ。
ウサギみたいな真っ赤な瞳を仲間には、見られたくないんだわ。
やっぱ、これは秘密だ...秘密。
「姐さんが守銭奴張りに金目のものにがめついってことは知ってますが、まさか頭をトマトみたいに潰した死体からも、まさぐる姿は...当方も初めて目の当たりにするんですが。これは一体何の冒涜なんでしょうか?!」
えっと。
たぶん、死者に対するものでして...
「尊厳を踏みにじる、絶対に真似しちゃいけない行為だよ」
ミロムさん、ありがとう。
そう。
これは他人に薦められない行為だわ。
「ちょっとまてー!!」
思わず、素で反旗を翻したとこ。
おいおい、君たち...これは、冒険者の作法だろうよ。
倒した敵のドロップアイテムを頂くというのは。
「ま、ドロップと言えば聞こえはいいけど。それ、他人から見たらただの追剥だからね?」
う、まあ、そういうともいう。
だけど、さ。
「百は多いとして、50歩譲ってだ。セルコットの今の絶対に真似しちゃいけない行動を正当化するとして...えっと、例えば...この王都のような治安のいい地区或いは、地域に盗賊か山賊の手合いとも思しきゴロツキども、これらが市民から金品を巻き上げてた...事情めいたものが」
ヒルダさんが死体らをざっと見渡して、
「その懐から出てくるとしよう!」
はいはい。
うんうん、出てくるとして?
「――セルコットのは...捜査ってことになるんだろうか?」
おーい!
疑問符にすなー!!!!
結局、あたしが頭おかしくなって死体から追剝してるっぽく見えるじゃんかよ。
「だって、死体から今...財布ぬいたじゃん」
OUT!!
痛恨のミス、財布を懐に放り込んだの見られてた。
◇
“碧眼のハイエナ”を通じて得たリストに記載された者たちは、4人。
うち――ゴロツキたちを倒した中に、2人の存在が確認できた。
彼らは、秘密結社アメジストの関係者で“組織の口”という者たちらしい。
皮革の銭袋には二重底になってて、
その中に縫い付けられてた割符から、断片的だけども...
王都で起きている騒動の多分、全貌のようなものが見えてきたように思える。
4人がすべての謎を解く鍵であるとは言い難い。
でも、
それでも...
彼らはそれよりも上の...指揮官めいた人物から指示を受けていたと考えると。
なんとなく事情が分かる感じがした。
そう、なんとなく。
「割符の表書きは、何かの手形みたいだね」
ミロムさんの広い知識が動き出す。
こう、ゴゴゴゴゴ...とか音を立てるように、だ。
「うん、無理! わかんない」
はい、諦めるのが早い。
「ミロムが分かんないんだと、こっちが分かるわけないじゃんよ」
回された割符にヒルダが愚痴る。
「あ~もう...えっと、ね。...あ~あ...じゃ、ラグナル聖国の商会で」
後輩に渡されたものが、司教へと回された。
彼女がパスしたんじゃなくて。
「ああ、そうそう! ヒルダさんの言われた、聖国の交易商“ウイグスリー”商会のデザインに似てますよ!!!!」
だって。
は?