新王と市民軍 王都灰燼 20
王都が火に包まれて、
領事館のある商業区も危うくなった。
――で、海兵隊と教会の聖堂騎士団とともに、都市内に走る川向こうの教育学区へと移る。
ここいらで知ってる施設と言えば、魔法詠唱者協会の学院と、教会だ。
司教さまらを助け出した筈なのに、戻ってきてしまった。
「火の手が領事館に迫るのであれば、致し方のないことです。それに、ここを出る前は聖騎士殿と、聖堂騎士の幾人かのみ。騎士団などと称してはいますが...兵力としての数は100人にも満たず」
と、謙遜するのは司教さま。
いやいや、
女神正教会の神殿騎士または、聖騎士の武威は一騎当千。
その下部組織である聖堂騎士も、一人当たり100人分に相当する性能だと語られる。
あっちの大陸じゃあ、有名な話だ。
その騎士団が100人もいるんだというのならば、それは万単位の兵力だってことで。
「滅相もない。戦争なんてものは結局、数ですよ。地力で勝るといっても単に個人戦闘力。不測の事態に陥れば、その数の少なさで司教か、修道女くん或いは、セルコットさんやミロムさんが倒れることもあるでしょうから」
「ちょ、私は?!」
と、やや憤慨気味のヒルダさんがある。
やー、あんたは矢が飛んできても刺さらないでしょ、その筋肉と鎧の前には。
「ちょっと、私も女の子だっての!!!」
地団駄踏んでる。
なんとなくは分かるけど。
なんと言おうとも、ヒルダは自分で解決できる。
◇
魔法詠唱者協会の学院というのに入ってみる。
開け広げられた、正門を通りあたりを見渡すと――近隣から逃げ込んできた住民の顔を見ることが出来る。知った顔が無いのは幸いだけど、ガラの悪い連中もいて。
「おっと、軍人さんらはお断りだけども」
って口を閉ざして数分。
「いや、もしかしたら俺らを逃がしてくれるかい?」
なんて商談を持ち掛けてきた。
矢面に立つのは後輩とミロム。
あたしと、ヒルダさんには向かない話だ。
それと、煌びやかな法衣を脱いでる司教様もだ。
「ここに流れついた人々をって話なら、やぶ坂じゃないから協力はするけど?」
周りを眺めると、人々の目は死んでるように見える。
「そうだなあ、安全に国境を越えたいんだが」
ミロムに革袋を放ってよこしてきた。
明らかに金属が擦れる音がした。
ただしあまり重さを感じない。
「少し...少ないんじゃないか?」
「いや、ちっともだ」
「ここの人々の分...」
矢を構えるゴロツキが現れる。
影という影からだ。
ざっと50人前後、いや、もっと少ないけど。
市民が抵抗して退けられるような、戦力でもない――統率された、兵士崩れといった感じだろうか。
「そういうこと?」
「俺たち30人を国境まで護衛してくれたら、残りの分を払う」
後輩の方は、ほとほと据えかねてる感じ。
ミロムは無言だけど。
「このお金ですが...」
「修道女の嬢ちゃんよ、それを聞いたらあんたはどっちの命を優先す要るんだ?! 司教か、或いはそこの市民か?!」
頭でわかってる。
自分は心のすべてを教会に捧げた訳ではないという事を。
司教も、自分の命など他の大勢と比較するまではないと腹をくくる。
だから...
「ミロム、左に退けろ!!!」
ってあたしが叫んでた。
腰のベルトから棒ナイフを3本投げて、
縮地の間合い詰め。
棒ナイフを弾いた、ゴロツキの頭をグーパンで殴り倒してた。
地面はつぶれたトマトみたいに真っ赤に染まる。
棟梁らしき者が一瞬で粉砕された光景は、ゴロツキたちの動きに影響を及ぼす。
まあ、これだから盗賊つぶしはやめられない。
人質を取ったから優位に立ったと思った瞬間に隙が生まれる。
「ひ、ヒルダさん!!」
司教の周囲に壁が出来る。
聖堂騎士の厚い壁だ。
聖騎士たちは四方に展開して、ヒルダと海兵隊とともに動く。
瞬く間に、悪党たちが制圧されていった。