新王と市民軍 王都灰燼 19
火の回りが早い。
傭兵たちの暴走も、たぶんあるんだろう。
いや、他に上げるとすれば、だ。
秘密結社の連中も便乗して、火を点けているのだという事実。
コンバートルは、国として致命的な決断をした。
王都で市民の虐殺を行ったのだ。
吟遊詩人は唄う。
彼らは、ラヂオだ。
見てきたこと、聞いたことを歌にして市民に届ける力がある。
これが地方に住む人々の娯楽であり、情報収集であるから――吟遊詩人の良心は“真実を伝える誇り”といったところだろうか。
冒険者ギルドが、大陸じゅうのそこかしこにあるからと言って、地方で起きた事件が、人の足を追い越せるほど速く走ることはできない。
これは王都で起きた事件や事故、騒動も同じ。
必ず伝える者があって初めて、噂として広く繋げられる。
だから、どこまでが新鮮な情報かは、実のところそこまで重要じゃないかな。
◆
あたしは――領事館の炊事場にて、下半身露出というやや屈辱的否、敗北感を受けてうずくまってた。だって、たぶん...あの痕跡の後探されてると思ってたし、隠れてた方がらしく見えるわけで。
古着屋でみつけたパンツも含め、仕事着とともに収納した後だから。
やっぱり、この敗北感を背負って――
「あーいたいた!」
あたしを見つけたのは、ヒルダだ。
こいつ、こんなとこで拗ねてるよーなんて大声で叫んでる。
そうさ、拗ねてるさ。
そういう風に演技してるんだもん。
いざ、脱いで、床に座ったらさ。
すっげー冷たいんだもん。
そりゃ、下っ腹も驚いて、さ。
でちゃうじゃんか、よ...お〇っこがぁぁぁぁぁぁぁ~
「泣くな、漏らすことは稀にあるもんさね」
「ヒルダも?」
「あ、わた..しか? あ、ん~うん。あるある」
歯切れ悪いなあ。
そこは慰めてくれるついでに失敗談を騙るべきだろう。
あたしの乙女心は傷ついたぞ!!
「もう、姐さんったら、ここでまた漏らしたんですか?!」
って、心の柔らかいところをえぐりに来るのが後輩だ。
紅の修道女と二つ名を持ち、教会では“シスター”って優しく微笑むような羨ましい環境で衣食住に困らない生活を送ってるやつ。
こいつの仕事を手伝う事で、ようやく町に縛られた生活からは逃れたけど...
逆に長期クエストに引っ張り込まれたような。
「みたところ...出ちゃったあと、これなんです?」
いや、なんでしょう?
「ヌルっとして...」
いやいや、してた訳じゃなくてだなあ。
たぶん、発見時にはこう、複数人に見られて恥ずかしい思いをするのだろうなあって、思考してたら~だな。なんかこう、頭の向こう側が痺れるような...ま、あれだ! あたしは意識を切り替えようとしたんだけど、身体が正直なだけと言うか、その...わ、悪くはないぞ、悪くはない、というかあ~
「ミロムぅ~ 助けてえー!!!」
心の声が、口を突いて飛び出してた。
「ミロム、お前んとこの子が、親を探してるぞ」
だって。
ヒルダの笑い声が痛い。
デリカシーがねえなあ。
◇
カウンターの向こう側で棚に背を預けて座り込んでた、旅芸人の男――
“碧眼のハイエナ”って旦那から遣わされた、あたしとの連絡係。
碧眼を棟梁とする盗賊団のスカウトだったんだけど、彼との別れ際に渡された紙片がある。
王都に潜伏している“秘密結社の口”ってグループ化された扇動者の名が刻まれてた。
碧眼の目的は違ったんだろうけども。
図らずも、その痕跡を得てしまったので...
彼は衛兵に売られた可能性がある。
「それって、怖っ」
ミロムさんの膝上、あったか~い。
革づくりのズボンだから、寝返り打っても腰は...腰。
あれ?