新王と市民軍 王都灰燼 18
王都が燃える。
王城の尖塔から見える紅蓮の炎は、瞬く間に黒山の群衆を飲み込んでいった。
それはなにもかも...
地獄絵図とは、このことだろう。
王宮より北西部は、貴族の屋敷が多く立ち並ぶ。
へドン卿にいい顔をしなかった、
いや、王家を傀儡としているからこそ、反発した旧陪臣の大貴族たち。
彼らの屋敷が、その地域に密集してた。
また、王都でも一等地だから、きれいさっぱり燃やし尽してくれたなら...
さぞかし見晴らしの良いものとなるだろう。
或いは、その土地でへドン政権の忠臣となる者を囲い入れることもできるだろう。
「こ、これは!」
同じ尖塔からアルス2世も見ることになる。
養生という名の優しい監禁場所で。
「きれいですね、陛下」
火をつけたのは表向き、暴徒たちとなっている。
金で雇った傭兵たちが松明を屋敷に投げ込んでいるんだけども。
家屋から逃げ果せてきた者たちは、その傭兵によって...
罪状は『王都騒乱罪』とか、現場のなりゆきで捻り上げた、罪によって端から槍で刺殺させた。まあ、大体、逃げてくるのは屋敷の使用人ばかりだから、貴族もへドン卿も内心では“面白くない”と思ってる。
とらえ方は、それぞれなんだけど。
殺ってる実行犯の傭兵も、
「ここまでする必要があるんかねえ」
ってボヤく声は出る。
まあ、当然だと思うわ。
あたしにもそんな依頼が来たら、良心の呵責ってので悩みはする。
でも、金貨でしょ。
「貰ってねえよ、俺は確か銀貨20と少しか...」
「いやいや俺は、ぽっと出だからよお。銀貨10枚でリクルーターの奴が受けたから」
傭兵の給金は評判で決まる。
素行が悪くても、たいていの場合は任務の遂行能力で決定するから。
例えば、何でも力や技で解決するヒルダの場合なら、金貨相当で間違いない。
あれが傭兵をするんなら、だ。
「金貨貰える傭兵ってどんな奴だろうなあ?」
新米が夢を馳せる。
手元が疎かだって、先輩の先輩。
賞金首にでも成りそうな、強面の髭面なおっさんが後頭部を叩いて回る。
「傭兵の相場は平均で、銀貨10枚だ! こっから任務遂行能力で上がりもすれば、落ちもする!!」
新人の喉が鳴る。
腕の悪い傭兵で、10枚以下の仕事が来るのは――戦場から逃げた者たちだ。一度、逃げ癖がつくと、旗色の悪さからすぐに逃げるようになる。いや、自分の命は大事に、相手の命は軽くってのは、間違いじゃないし。
逃げる時は逃げていい。
ただし、その読み時はリクルーターの評価が分かれる時ってことだ。
評判を吹聴するのも、リクルーターの仕事だってこと。
「――銀貨50枚を超えて一人前! 金貨1枚以上で猛者って呼ばれる。貴様らがその身、その腕で金持ちになりてえってんなら、意地を見せろ、良心なんていう心の枷を外せ! 今のてめえらには一番必要のねえもんだ!!! 死ぬ気で働け」
って鼓舞する。
これが100人の傭兵を従える、傭兵隊長。
国軍や騎士団から崩れてきた、元兵士の傭兵。
こういうのは、指揮能力もリクルーターに査定されてる。
腕がいいと、戦場で1000人将とか5000人将の枠が貰えたりした。
あくまでも一握りだけど。
◆
「じゃ、焼く」
男をカウンターの背後にある棚へもたれ掛けさせて、
あたしは、手にオーラをまとった。
肉が焼ける匂いがする。
「...ったく、灼ける匂いは動物も俺のも大して変わらんのな」
そんな減らず口が出る。
たぶん、まだ。
「俺の...それ、灼いたら...金色は友の下へ還れ!!」
任務遂行どころじゃなく、彼の命が。
「心配するな! じきに迎えが来る」
旅芸人の彼は微笑みながら、突き放してきた。
で、あたしは言われるがままに、ミロムらの待つ領事館へ。
良心の呵責は、闇に生きる者にも不要。
ただ、時としてそれが一線を超えさせないストッパーになる。
あたしは金回りが良くても...
うん、市民には手を出さないと思う。