新王と市民軍 王都灰燼 17
暗殺者が暗躍する頃合いではなくなった。
というか、暫く様子見してた者たちが、だ。
どういうわけか距離を取り始めたのだ――いや、違うか。巻き込まれたくないと思ったと、言い換えた方がいい。
理由は至極当然なんだけど。
王都市民を守る筈の国の軍隊と、王族直属の禁軍がだ。
民に刃を向けたからだ。
この混乱に乗じて、要人の暗殺をすればいいと考える。
いや、違うんだよ。
逆。
それは逆なんだ。
こうなる前から王都の空気は不穏だった。
逃げ遅れた大使館の要人たちは、今、独自の裁量で警護を厚くしている。
目端に動くものが野良猫だって殺しに来るだろう。
そうした警戒度MAXの警備兵に、感づかれずに事を成せる者は、もはや伝説の~とかいう二つ名で呼ばれることになる。
あたしの知る中では、ひとりもいない。
別の意味で“伝説”作ったやつはいるけど...ヒルダさんだわ。
◆
警戒MAXの貴族館へ単身、正面の門から突破すると。
瞬く間にお屋敷の半分が剣技のひと振りで消し飛んだという。
アホだ。
いや、脳筋過ぎて。
チートも通り越す。
無敵じゃないだろうけど、無双はいい加減にしてほしい。
その攻撃により、あたしが巻き込まれて4日後、瓦礫の中から救出された。
メイドに扮して潜入し、こっそり悪徳領主の暗殺をしようとしたんだけど...獲物横取りされて、踏んだり蹴ったりだった。あたしの仕事ができなっただけで、依頼が誰かの手で遂行されたのだと思えば...失敗というわけでもない。
ふふ、あたしってばポジティブ~♪
「それ滅茶苦茶、アホじゃん!」
ミロムからの呆れた声が木霊する。
夜の帳も落ちてるし。
王城方面が赤黒く燃えているように見えている最中、この帝国領事館はやや、おっとりしてた。
こんなんでいいのかってくらい、ほわっとしてる。
「だって、こっちに隠密なんて二文字は無いんだよ!」
「それって、暗殺者として」
いやって声が漏れた。
帝国式のソレを暗殺剣と呼ぶのは、リーズもある大陸の方だ。
使い手のすべてが圧倒的武力で、事態を自分好みに染め上げるために...
いつしか帝国式は“暗殺剣”と呼ばれるようになった。
「その攻撃に巻き込まれて知り合いが多数いるわ」
ミロムは項垂れてる。
たぶん、あたしじゃない。
リーズの傭兵たちだろう。
「それって謝ったら許してくれる?」
「知らない人たちだろうから、別にいい...。それよりも、どうする? 王城の方はあんなんだし、動くなら早い方が?」
星灯りも届きにくくする黒煙が、
状況のヤバさを3人に伝えている。
「動きたいのはやまやまだけど」
館にもいない、あたしが問題の一つ。
ほんとうにどこ行ったんだよって、思われてた。
◆
探索を諦めた、あたしは。
再び、古着屋へ立ち寄る。
「何しに戻ってきた?」
旅芸人風の男がカウンターに。
首の骨を鳴らして、左右の肩に傾けてた。
「目につく者は殺せたと思うけど」
「ああ、情報屋から聞いている。方々から様子見してた連中が、金色を目撃した時点で潜伏しやがってな...」
「そっか、それでサーチに捕まらなかったんだあ!」
ちょっと間抜けっぽかった。
「国王軍の連中が片端に武器を持ついや、怪しいと思った者に刃を向けやがって...」
そこで漸く、あたしは旅芸人の彼の息が早くなっていることに気が付いた。
カウンターの後ろへ飛び込むと、
彼の腹には、深い刺し傷があった。
「ポーションを!!」
「無駄だ。手持ち、5本飲んでこの有様だしな」