新王と市民軍 王都灰燼 16
屋根によじ登ってきた衛兵は5人。
ひとりは、まだ上ってる最中だけど...明らかに動揺してた。
そりゃまあ。
警鐘が鳴り響いているからで。
いや、どっち優先?みたいな声掛けをしてて――上がり切った4人は「屋根の上の不審者に決まってるだろ!」と。
依頼主は、吠える犬についてきた何処かの大使館警備兵だったようだけど。
ま、依頼主もこの継承が鳴り響く異常事態につき、館の警備へ戻ってたみたい。
だから優先すべきは...
あたしじゃくていいんだけどなあ。
◇
あたしは、まず。
槍を突き出してるふたりに、体当たりした。
槍は穂先から蒸発するから、あたしの身体に突き刺さることはない。
しかも、その高温のベールはそのまま武器にもなる。
なんだかいつも悪い気になるんだけど。
これも仕方ないっていうか。
いや、もう本当に申し訳ない――体当たりされた、兵士は玉突き事故みたいに。
次々に吹き飛ばされた。
もともと足場のいいとこじゃないし、
加えて、そこそこ立派な金属鎧を身に着けてた。
王都の治安を守る警備兵。
装備にばらつきがあったら、その隙間を突かれて、兵の士気や戦闘力が落ちてしまう。
ま、それが仇になった。
「とぅ!」
あたしは、屋根上でべちょっと...倒れただけだけど。
兵士の皆さんは、眼下へ落ちていった。
頭から落ちたらひとたまりもないけど...あれは、腰か、背中かもしんない。
よじ登る最後の兵と、覗き込んだあたしとで目が交差した。
でも、すぐに彼は下に降りて、仲間の傷の確認をしてた。
おお、すげえー
「こ、ぐあ、..ふ、不審者!!」
逃がすかあって、聞こえるけど。
ひとり元気な兵士に宥められてる。
「まずは、ポーションだ」
って、言われてね。
ポーションは、支給品として兵にひとつ用意されてる。
品質がいい訳じゃないけど。
切り傷や、打撲、骨折などの応急処置としては、最適解だ。
ただし完全に治せるものでもない。
それは高価な方。
ま、あたしは...彼らが死んでないことを確認して。
再び敵対者の捜索を開始した。
アホじゃないかって感じのをもう一度。
敵意を探るホスティリティ・サーチを使用する。
敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵......
ほら、またやった。
あいたた...
痛い、痛い、痛い...
「あたしはバカか!!」
ひとりツッコミ。
これが空しいってのは、数十分前のあたしが良く知っている。
それをなんで、繰り返すのか。
そう、バカだからだ。
◇
冷静になれ、あたし。
屋根上で仰向けになり、星空の星を数える。
うん、オーラを消すと途端に寒くなるんだってのを知る。
「センス・エネミー」
あたしほどの熟練者だと、半径数百メートルの範囲の敵対者を探ることが出来る。
えっと、あたしに敵意を持っているのは...
すっごい近くに5つもある?!
あ、それ、眼下の衛兵さんだった。