新王と市民軍 王都灰燼 15
とうとう市民軍という名の暴徒と、近衛兵団が正面衝突した。
まずは小競り合いから始まる。
王都の中の主要な幹線道路に陣取った市民軍というなの集団は、だ。
プラカードと、垂れ幕を持って各々、ヤジでも飛ばしながら叫び――『国王は要らない!』『君主制の解体!』『市民の手に自由意思を!』――なんて叫んでた。
貴族社会に市民が聯合して、立ち向かうにはしばし時間が必要な気がするんだけど。
扇動されているから...
或いは、声高に唱えるすべての人が...
呪文のように紡いだ言葉の意味を、理解しているとは言い難い。
ただ、繰り返して唱えてると。
集団の心理か刷り込みか、なんとなく正当なものだと思ってしまうようだ。
ぺらっぺらの薄いスローガンだとしても、だ。
「王を否定するという事は、小さい単位で置き換えれば...家長を否定しているのと同義である! 貴様ら烏合の衆を導くために“王”が存在しているのだ!! 好きな場所で好きなように生きたいというのであれば、この国を出ることだ」
って、向かい合ってた王党派の市民に一喝、貰ったところ。
普通ならば、
「はんっ、スケープゴートが欲しいんじゃない! 俺たちの意思を代弁する代表者による合議で、進むべき道を選択していく...。そんな世界を欲しているんだ!!」
みたいな流れで言い合ってた。
けど、喝入れがちょっと違った方向に入った...ぽくて。
暴徒の方は唐突に、
王党派支持の市民を張り倒してた。
◇
もうあっという間の出来事だ。
張り倒された市民は気が動転した。
『え? 今なんで殴られたの?!!』
って、頭の中でぐるんぐるん質問が巡ってた。
すぐに起き上がって、恫喝でもすれば――或いは、罵りあい程度で済んだ可能性がある。
でも、張り倒された市民は地面に四つん這いになった状態で、ぴくりと動かなかった。
「キサマー!!」
そんなことしてたら、つまでも立ち上がらない横にいた者が、目の前の市民を突き飛ばしてた。
あとは連鎖的に、小突く。
叩く、
殴る、
蹴る、
体当たり、
絞める、
かじりつく、
チャックを下ろす、
脱ぎだす、
揉みしだく、
吸いつく、
舐める...もう、ひっちゃかめっちゃかに。
で、ズドン...最後は生々しい音が響き渡る。
短筒って呼ばれた火縄銃ショートバレル、だ。
銃身がマスケットの5分の1くらいしかないタイプで、有効射程は20数メートル。
金属製の甲冑なら、弾くほどの弾速しかなく。
もっぱら脅しくらいにしか、利用されなかったものだけど。
暴徒のひとりは舶来品の短筒銃を構えて、止めに入った禁軍の兵士を撃っていた。
金属のブレストプレートにでも当たってれば、大事に至らなかったろうに。
そういう時に限って、太股を撃ち抜いてたりする。
◆
あたしの目の前に立つ衛兵は、
「御用改めである! 素直に武装解除して――」
マニュアル通りのセリフを吐きながら、
槍を突き出して、にじり寄ってくる。
まだ、少し距離がある。
半歩後ろに下がったあたしは、前傾に身構えたとこ。
踏みこむ足は右、足の下で火炎球が爆発するようなイメージを浮かべる。
上体を起こして飛び出したら...
たぶんサバ折りだわ。
ぎゅーんって、
走りだせてた。
ポンチョ・ローブの背面、腰に巻き付けた厚手のベルトにククリナイフ。
グルカっていう少数民族が使用する、鎌のような刀身が“クの字”に曲がっているのが特徴。
また、ナイフって言っちゃあいるけど。
刃渡りは30~40センチメートルくらいあって、ショートソードにもっとも近いとされる。
単に刀身が真っ直ぐなものよりも、懐に飛び込んで、鎧の継ぎ目から切りつけるような使い方だと、こちらのククリナイフの方が使いやすかった。
あたしが王国式なんてのを使わなくて済むように...
ってことなんだけど。