港街の悪い人たち 1
会場のど真ん中では、番頭さんが黒装束へ『申し訳ございません』って謝り倒してた。
その必死さには憐れみさえ感じて、何処か憎めないキャラに――ってあたしの目の前で、番頭さんはあっさりあの世に送られた。胸に刺さる銀色に光る針のような刃、あれは暗器だね。
ただ、盗賊にもいたけど、さ。
悪役のお約束だからって仲間の命を大事にしなさいよ!
今度似たシチュエーションになった時、まっさきに切り捨てられるのは――。
◇◆◇◆◇◆
「そういう事ですか?! 教区長」
後輩ちゃんの指が真っすぐ領主の背後に立つ者に向けられる。
も、その黒装束の方は『え? 俺???』みたいな感じで自分を指し、真横の細長い方へ。
あ、そっちだったんだ。
後輩の腕はその細長い方へ向けられてた。
「教えてくれてありがとう!」
あたかも高度な誘導という心理でも使ったように誤魔化してたが、あたしには分かる。
こいつ本気で...間違ったな、と。
咳払いが入り。
「どこで分かりましたか?」
おおこれぞ、大物悪役の貫禄。
そうだ、そうよ!
小物を即座に殺しちゃうから、ちっちゃい人たちかと思ってたわ。
盗賊並みに、ちっちゃ...い、かと...。
「?...!?」
あたしの目からは逃れられぬぞ、教区長さん。
「巷で出回っている“妖精の粉”の効果が二つあることが、ね。ひとつは強い常習性があるものの、肉体を極限までに強化し得るほどの効果があるという話。およそ、それが到達すべき目的であることは理解している。ただし、肉体を変質させるのが過剰摂取によるものだとすれば...この腕が奇形化した意味が薄らぐ、当方、服用した気配はありませんから」
後輩ちゃんが探偵バリに解説しているが、あたしの目はただ一つに注目してた。
それは、教区長さんの足だ!
あれは、シークレット...ブゥーツ!!!!!
マジかよ、長身と思わせてからの大どんでん返し。
「当方の先輩は癒し能力も高く、彼女の血一滴でも啜れば...ほら、この通り」
試験管の中の赤い水を飲む後輩。
あたしはそれをチラッと見てた。
いや、アレが自分の血だとか思わんでしょ、普通――そもそも、何時、それ盗ったんだよ。
「ステータス異常を一時的に跳ね除ける、正に神の御業...いえ、秘跡そのものでしょう?」
奇形してた腕が治る。
確かに、あたしの“加護”が少しは役に立っているらしい。
学校でも師匠にそういう話を聞いてた。
けれども、それで効果があるのは、吸血種と呼ばれる方々のみだ。
教会と協会のみなさんが目を輝かせるような、
いや、ような...そ、そんな、ポーション的効果は後付け設定で...おい、後輩!
アタシの日常が崩れる言い方は、やめて。
「潜り込ませてた密偵どおりのようだ?!」
教区長さんの視線がこっちに向いた!
「でも、教区長は知らない。当方が遣える女神を信奉する正教会の秘跡も、彼女以上の事が成し得られるという事を!!」
魔法詠唱者協会と対峙してた、騎士団が強い光に飲み込まれる。
光が弾け飛ぶと、先ほどまでに威勢の良かった裏切者たちが転がらされてた。
おっと、後輩ちゃん...何呼んだよ?!
「紅の修道女たる当方が招集できるのは“異端審問官”として、枢機卿猊下からお借りする聖騎士のみなさんです。ただの裏切り者さん?」
後輩、魔法使いでありながら異端審...なんて、欲張りな。
さっきから真打登場しすぎて。
「あ、ちょっと待って...」
「何です先輩、まだそんなトコに突っ立てたんですか」
立つのはTKBで十分ですとか聞こえてきた。
あたしは首を激しく振り、
「こいつら、さ...悪い奴だよね」
領主の旧屋敷に集まった全員が頷き、
領主も『そうだよ』なんて呟いてた。
ああ、その辺は自覚してるんだって関心はした。
「じゃ、じゃあさ」
「――ダメに決まってるじゃないですか!!」
え、っとあたしは、何も...
「火炎球で盛大に吹き飛ばしてもいいよねって了解、取ろうとしましたよね! そのつもりで聞きましたよね?! なんか出番ないなあーとか思って、TKB弄りする気配でもないし、豆も服の縫い目利用しながら擦る場面でもないから...何か派手な事して気を紛らわせたいなあって理由で、提案しようとしましたよね!!!!」
って捲し立てられてるけど。
あたしは、オ〇ニーしようとか考えてないから。
全部、後輩ちゃんの妄想じゃないか!
「いや、...っ、お手つ...」
「要らない! 先輩、ぶっ壊す事しかしないでしょ!」
ずどんと刺さる言葉。
あ、それは重い、っス...ね。
あたしは大きく背中から倒れてた。




