新王と市民軍 王都灰燼 14
狙撃者もイラっときてた。
鉛の銃丸は12.7ミリのものを使用している――長大な射程を誇る狙撃専門の火縄銃であるから、銃自体の大きさも1733ミリなどという巨大さである。
ここから射出される最早、銃弾ではなく砲丸のような鉛玉が、だ。
3発中、2発はあたしに当たっているという事実。
屋根の上で憤慨し、ぷんすこしてたあたしが目で避けたのは、1発だけである。
狙撃手にとって見えてたかは重要なことじゃなく、当てているのに頭が柘榴のように爆発しないことが悔しかったのだ。
まさか、銃丸が高温で燃え尽きているとは知る由もないこと。
「当たっているのにぃ!」
鐘楼の縁を利用して、三脚を立てずに射撃してた火縄銃。
弾を込めるのにはやや苦労する。
先にも解説したように。
銃の全身長が1733ミリもある。
銃口下にある、装填棒も砲身とほぼ同じ長さがあって、取り回しが悪く手間がかかる。
しかも3射目で事実上の打ち止めだった。
4射目は弾込めに、ざっと数分いや多く見積もって10分くらいは欲しい。
うまくすれば、2本に装填できるかもしれないからだが。
◇
あたしが、犬を引き連れ屋根伝いに走ってた。
眼下では犬が吠えてるし、賊はどこだと鼻息の荒い連中もあった。
そう、厄介者が近くに迫ってきているのだ。
狙撃手は、自前の火縄銃に一瞥をくれてやると――『無念』――なんて短い言葉を残して、鐘楼から姿を消した。
あたしから見えない柱の陰伝いに、ロープで降下すると。
その足で城壁側へと走ってた。
任務の失敗を悔やみつつ。
あたしも、飯のタネを逃がしちゃったクチ。
ま、屋根によじ登ってきた衛兵と、あたしが対峙。
陽炎のごとく肖像が揺らぐ金色のあたしを見て――「ひっ、バ、バケモノ!!」
と、口走ったやつがいた。
ま、そういうキャラ付けだけども。
面と向かって言われると傷つく。
――で、鐘が鳴り響いた。
町の異変を告げる音色である。
◆
ヒルダとミロム、後輩と海兵隊らも領事館で音色を耳にしてた。
異常事態だという事は、激しく打ち付けられる音色でわかる。
王都市民には、危険だから不用意に外へ出てはならぬ、と。
各国の要人たちにも、身の安全は自分たちで守られよ、と。
そういう警鐘だった。
「ちょっと、ヤバイんじゃ?」
草地におしっこ跡を残した、あたしを心配するミロムさん。
「セルコットはさあ、ちょっとおっとりしてるとこあって、すぐ迷子になるから心配じゃない?」
「え、マジですか!!」
後輩が驚く。
え、そこ...今更!?
「ダンジョン清掃中って書いてあった立札を、自分で踏み倒して迷子になる事は...ほぼ、しょっちゅうだったし。買い物を任せると、いつものクリティカルな冴えある運は影を潜めて、財布に穴が開いてたとか言って泣きながら帰ってきたこともあったね」
あ、やだなあ。
そんな昔のことを...
ま、さっきも財布落して困ってるけど。
いつもじゃないよ、いつもじゃ。
誤解を招くような言い方はやめて!
マジで、そこ、プリーズです。
「だから早く見つけないと、いい歳して“漏らしたあ”って泣いてるかもしれない」
「あ、それ! なんかアリそう」
後輩ちゃんもかよ。
ミロムに言われるなら諦めが。
「でも、本当にどこへ行ったんでしょうか」
「パンツ洗いに領事館の水場に居ればいいけど」
あ、そういえば。
パンツ、水場に置いてきたままだったっけ。