新王と市民軍 王都灰燼 12
王都にあった“敵意”の根源は、秘密結社の工作によって催眠状態にある市民と、それを武力で一方的に壊滅させようとする為政者のものだった。
そりゃ、敵意が四方でマシマシに、増えるわけだ。
それぞれ小競り合いは始まってたけど。
大火というよりは、小火。
消化する気になれば、鎮火も可能な雰囲気ではある――やる気であれば、そもそも睨みあいなんて起きもしないか。
◇
例えば、中央市場がある商業区。
1キロメートルにおよぶ長い通りには、道を挟んで露店が立ち並ぶ王都一活気のある界隈だ。
これが普通のことであるならば、夜の帳が落ちても、一杯飲み屋の屋台の灯りが“ヒカリゴケ”灯の脇で照らされて賑わっていただろう。
暴徒が闊歩する今宵は、そうもいかない。
店を開ける店主もなく。
閑散としていた。
そこで、登場するのが盗賊さんたち。
あたしに暗殺者の駆除を押し付けた後、ハイエナの旦那は戸外の盗賊たちを、王都の商業地区に送り込んでた。風前の灯火たる王国で今、厄介なのが人質として囲っている、各国大使の命である。
逃がさないと決めた時から、各国にとっては“どうなってもいい”命になった。
いや、政治的に言えば、だ。
王国の管理下で要人の死は、(各国がふっかける)報復戦争の大義になる。
旦那としては国が崩壊することを望んではいない。
だから...だから、あたしに処理を任せたんだと思うんだけど。
◆
狙撃手の始末を終えて、屋根に這い戻ったあたしは狙撃された。
いや、火属性魔法を放つでなく、身体に纏わせた状態で鉛の玉弾が蒸発したとこ。
いやあ~ すっげービビった。
当たらないと分かってても、さ。
ジっ
焦げ臭い匂いと衝撃波が頭を揺らすんだわ。
致命傷とか、脳震盪なんかにはならんけど。
イラっと来る。
ドライアイになるのは。
この纏っている凄まじく高い炎の繭の中にあるから。
ふつう、手のひらから球体をイメージするのが“ファイヤーボール”。
視認範囲に壁のイメージが“ファイヤーウォール”。
矢をイメージするのが“ファイヤーアロー”。
仕掛け爆弾をイメージするのが“ファイヤーボルト”。
すべてはイメージ。
じゃあ、火炎で自分を纏わせたら何になる?
これがドライアイになる正体。
いや、耐性異常化を緩和させるパッシブスキルがあるから、窒息したり、焼け死んだりすることはない。
ただ、目が乾く。
あ、いや...瞬きしないのも悪い。
『化物が、瞬きするもんか!!!』
偏見だけど。
そうなんだあ~って当時のあたしは、疑わなかった。
発砲音は2秒遅れて聞こえた。
衝撃波は後頭部に近いから、ゆっくりと振り向く。
2射目は眉間に――もちろん蒸発したけど、気持ちのいいもんじゃない。
ぱっちり丸く目を開いてなきゃイケないんだけど、あたしは金色の瞳を細めてじっと光った方角へ向けてた。
距離は7、800メートル。
高さは屋根よりふたつ上、いやみっつ...光った感じからすると。
教会の鐘楼?!
3射目は身体を捻って避けて見せた。
狙撃手にも『お前が見えてるぞ!!』って教えてやった。
たぶん、石弓を使って暗殺しようとした者の仲間だろう。
「痛くはないが、気分の良いもんじゃないから...ぶっ殺す!!」
って、聞こえもしないのに叫んでた。
屋根で騒ぐと犬が鳴く。
犬が鳴くと、大使館の警備兵がざわついて...
屋根上でぷんすこしてるあたしが不審者に。
おっと、これは退散、退散...。