新王と市民軍 王都灰燼 10
足場を崩した弓兵はやっぱり玄人だった。
瞬時に背中に抱えてた長弓に切り替えて、崩れ行く体勢のままで矢を放ってた。
あたしも、背負ってた複合短弓で飛翔体を射抜く。
これはこれで、ちょーマグレ。
これぞ“神の賽”のクリティカル効果。
失敗を悟った達人の目はこちらに向けられてる。
あたしが視認したのは、矢が放たれた2秒後。
だって、あたし...神様じゃないもん。
そう、いつもそう。
“神の賽”によって、先の先でなくとも後の先で、価値を救うことがある。
まあ、これをチートと呼んでくれても構わないけど。
リスクはある。
使いすぎると、神さまの査察が入る。
ああ、えっと。
見られたくないトコを、曝け出されてまさぐられ、贄にされる――あれ。マジで嫌悪しかない。
チート使うんだから、それぐらいって思うじゃん。
心の苦痛は、耐えられない。
もっとはっきり言おう!
これはアレだ、高低差のある高台に...パンツも履かず、スカートの中身を盗撮させているような。
気持ちの悪さ。
個人の趣向で背徳感を覚えるってんなら、ご褒美だけど。
あたしには、そんな羞恥プレイの方はない。
しかもだ。
もっと嫌なのが、そこに触手プレイも交じってくること。
神さまの査察はこんな感じ。
体よく身体検査...なんて言ってるようだけども。
◇
矢は、あたしの目前で消し飛んだ。
ドライアイで、血走った金色光彩の片目が、ぎょろりと標的を睨む。
こっちは早く目薬を注ぎ込みたい。
なんで、ドライアイになるのか。
矢が消し飛んだ、あたしの周囲に起因する。
暗殺者殺しをしているときは、それを強要した碧眼のハイエナからの強い要望のせいだ。
『イチに、正体を悟られるな! ニィに極力魔法を使うな! サァ~ンに、盗賊狩りの~とかいう忌み名にも被るんじゃねえ!!!』
で、別のキャラを演じさせられたっけ。
“金色のサイクロプス”
女の子の名乗る二つ名じゃないって抗議したら、奥歯が抜けるまで殴られた。
殴られた後に、
『いやあ、俺が悪かったよ。お前が可愛くてつい、力が...』
典型的なDVですねえ。
今から思い返せば、すべて旦那の悪い癖だったわけだ。
でも身体がしっかり覚えちゃって。
可愛がりながら殴る音と、声が耳の奥、頭の片隅に刷り込まれている感じがする。
矢を放った、暗殺者の腹の上に飛び込むと――
あたしも彼を、可愛いって籠った声で殴ってた。
いや、殴り殺してた。
瞑れた顔に黒い消し炭の痕跡。
「あ...溶け、いあ、焦げちゃった?」
正直、イってると思うわ。
このキャラ。
多分、人格も違うと思う。
◆
「こっちもさ、色んなとこで暗殺してきたから。同業者の邪魔が入らない事は無いんだけど、ね。あれは...ニアミスって感じだったかな?」
ほうって食いつく。
ヒルダの仕事はいつも完璧。
圧倒的暴力で、なにもかも災害みたいな規模で有耶無耶にできる。
そもそも失敗ってのは繊細な方々の為にあるもので...
彼女の失敗と言ったら、戦争で敗戦でもするくらいの規模を差す。
比較対象が違う。
「紛争地域に赴いて――」
真剣に聞いてたふたりの目が点になる。
「難攻不落の城塞に立て籠る城主の首を取る任務だった!!」
だよねえ~って溜息が吐かれる。
海兵隊の方も似た感じ。
姫に繊細な仕事は向かない、くらいの声も漏れた。
「こらこら、所々でため息吐くな、話が進まん!!」
「だって、結局、忍び込まなかったんでしょ?」
ヒルダの首が星を見る。
ああ、図星。
「正面からじゃあないけど...吹き飛ばした」
「ほら」