新王と市民軍 王都灰燼 8
「――暗殺者たちのリスト...とか、」
「あるわけねえだろ。各国ともに自前か、或いは傭兵なんかで対処するとしか掴んでねえ。てか、そこは盗賊狩りの姐さんの仕事じゃねえかなあ。守り切れれば...特別ボーナスもあるって話だぜ?」
って言われるのが弱い。
前からそんな甘い言葉で動かされたものだ。
そして、彼はあたしにそれが、通用することをよーく知っている。
碧眼のハイエナ...。
彼の傍から離れても、なかなかどうして。
呪縛なのかねえ。
漏らしたその場で、投げ文に当たる。
痛って声こそ出なかったものの、涙目になって...
小石を包んだ紙片に気が付いたのが運の尽き。
あたしの運勢も賽の目次第ってことかな。
◆
やっぱり少し調べるだけで、各国の対応は早い。
逆にとれば、結論を急ぎ過ぎている。
救出するリスクより、殺してしまおうってのは、似た稼業として複雑な気分。
王都は封鎖されている。
ただし、脱出を試みる者たちに向けた目だから、外から入り込むのは簡単だ。
そうして片道切符を掴まされた、暗殺者のひとりは王城の北側にある墓所と教会区へ。
そこにあるのは、ラグナル聖国の領事館。
教会の初等教育機関があり、多くの逃げ遅れた聖職者があった。
みんな同じような麻のボロ雑巾めいたローブを羽織ってる。
聖職者だって言われなかったら、異臭を放つ物乞いだと思うだろう。
いや、初等教育中のたまごたちは正に物乞いと同じ環境だという――ラグナルの教義として“持っているものは、持たらざる者に与えよ”ってのがあるんだとか。
要は断捨離だな。
生きるだけに必要なもの以外は、持つべきではないとか。
下っ端の身ぐるみ剥いで、上級職の者は、黄金抱かれるいつものパターン。
ただ、こういう隣人が誰かも分からない傾向は...
ナイフを握った手を、あたしは砂の入った革袋で叩きつけた。
ごちゃごちゃとした人ごみの中でも、鋼の銀色は光るんだわ。
そして、そこに殺意が乗れば――それはもう、暗殺者でしかない。
司祭長を兼務する領事の前の前で、男のうめき声。
そりゃ、誰だって驚く。
領事なんてその場で尻を突いてたし、手首が折れた男も膝から崩れてた。
で、取り押さえられる。
あたし?
あたしは革袋から砂を抜いて、その場から退散。
だってひとりひとり始末するなんて、時間の無駄だし。
あの場の有志に任せればいい。
◆
王城を起点に南側は教育区だ。
魔法詠唱者教会の学術院なんかもあって、高等な学問を学べる館が多く立ち並ぶ。
そんな一角にメガ・ラニア公国の大使館がある。
芸術と、高等魔法教育に力を注いでるんだとか。
或いはコンバートルが誇る、魔法剣士の勧誘なんかも...その大使館で行ってたとか。
専属のリクルーターの暗躍は、世が平和ならば問題視されてた案件だった。
混乱よ、ありがとう。
ってな状況だろう。
「本国が、見捨てた...だと?!」
逃げ遅れた、貴公が悪いとか――鏡の向こうで告げられた。
外務省は国への働きを断念した。
「実に残念だよ」
交渉が長引けば、人質返還に金銭の要求が含まれる。
また、コンバートルに手放す気が無いことも分かった。
大使は、窓のブラインドを上げて一息つく。
外の世界が見たくなった。
とは、言っても陽は西の尾根に消えたところだ。
あたしは屋根伝いに、この大使館へ到着。
腰の棒ナイフを2、3抜いて投げた。