新王と市民軍 王都灰燼 6
「国庫の中身は?」
近衛隊長改め、へドン卿。
一代限りの騎士伯の爵位を持つ者である。
ま、王を導き通せば、いずれ正式に伯爵の爵位だって叶うだろう。
「出納係の小役人に調べさせていますが、国庫攻防のどさくさで失っていなければ、数十万枚の金貨があるとのことです。とは、いえ...方々に貸し付けてある分や、借金なども考慮すると...先のない額のようですが」
副隊長のネイザー卿。
隊長と似た境遇で、一代限りの騎士子爵に叙任されてた。
とはいっても、名誉爵位で大した権限は無い。
給金の額も...近衛騎士団副隊長のものしか出ない。
まあ、こうした見た目のステータス系爵位は多い。
なんたって、国王側からしたら配りたい放題である。
ちゃんと国家に貢献した人物という条件はある。
その条件が、戦で勲功を上げたとか。
或いは、内政や国内産業を目覚ましく発展させたとか。
あとは~国を憂いて慈善事業に率先して貢献した...とか。
そんな、感じ。
これらを国王が“条件のクリア”だと認めれば、勲一等とか口添えて...爵位を授けてた。
例えば准男爵や准子爵なんて新設された爵位だって、金貨1000枚以上の寄付によって等級爵位なんてのが叙任されてきた。
貴族を金で買う時代。
っても、実際は名前だけの貴族――本物からしたら、権威に泥が塗られたと思うわけで、気分のいい話じゃあない。
「借金のことは気にするな」
はっきりとした口調。
この場に政務官や執政官があったら、耳を疑ってたろう。
王国を信頼して貸し付けてくれたのだから、利息だけでも支払うのは当然である――が「この緊急事態には勅命で“徳政令”を発布し、債務免除とする!!!」
強硬発言。
執政官の『我が国の信用度があ~』って泣き崩れるのが見える。
貸し付けているのが国内の豪商たちだけなら問題は無いが...
いや、無いとも限らないけど。
一番厄介なのは国外の方――債権放棄の命令って、踏み倒しだからねえ。
コンバートル王国もいよいよ、危ないかって底値を見られる感じな訳で。
「宜しいのですか? 債権放棄させるとなると...信用以前に国の困窮ぶりを内外に晒すことになりませんか。確かに王都にて抱える魔法剣士の数は、そのまま我が国の戦力でしょうけども」
「何が言いたい」
「戦争ともなれば総力戦です。隙はなるべく見せない方がよろしいのではないかと...そういう話を」
へドン卿が指を弾くと、
扉が開き副隊長であるネイザー卿は、執務室の外へ放られた。
まあ、そのまま軟禁されることになる。
近衛隊長へドンの恐怖政治が始まる。
◇
玉座の間にて、
国王アルス2世は――
「ネイザー騎士子爵が役職を解かれ、監獄塔に幽閉されたと聞いたが?」
事情は把握している。
諫言したら、閉じ込められた。
そんな経緯だろうと。
「ただ今、国内は非常事態に突入いたしました!」
という一言で、済ませようとしてる。
気弱な酷だけど...
「では、別の話を」
「...」
「王都はいつ開放するのだ?!」
脱出し損ねた複数の領事たちがある。
ヒルダとあたしらは勘定に入ってないんだけど。
ラグナル聖国の領事あたりは激昂しているらしく、手を焼いているという。
王都脱出が出来ずに、元の領事館に籠ってるとか。
「当分は...解放する気はございません。いえ、手放すつもりが無いと申し上げましょう。彼らは大事な人質なのです!!!」