新王と市民軍 王都灰燼 5
で――『そのような戦力があるのならば、正統なる王国の主に協力の意を示し...もってその兵力で我が仇敵を打ち滅ぼさぬ!!!』とか、意味不明な檄文の送付があったという。もちろん、海兵隊を率いるヒルダの肩はずんと落ちて。
あたしから見ても、矢印にしか見えなかった。
「思った以上に暗愚な王か、バカな家臣しかいないのか」
おそらくは、その両方だと思います。
ヒルダの落胆は、あたしには推し量れない。
だって誰かの導き手となって...戦う事なんてしたことが無い。
せいぜい。
生家のあった村で、同い年の子とやんちゃした時ぐらいか。
あれで率いるなんて烏滸がましくも、口に出せる雰囲気じゃないし。
うーん、あたし...
なんもしてないな~
◇
無能な王様というラベルがアルス2世に張られた。
発布の出所は、宰相も兼ねる“王の手”の近衛隊長――禁軍との衝突で、王都内に完全独立の精兵があることを知ったからだ。まあ、当然、排除するよりも“味方”になるよう、説得はしてくるだろうけど。
アプローチの仕方が良くない。
もっと言えば、傭兵を雇うのと同じくらい気を使って欲しかった。
「さて、この要請書...みたいなのにどう答えるかだ」
ミロムさんが斥候から戻ってきた。
王都から出るには、一足遅かった感があるという。
「やっぱり閉ざした?」
ヒルダはミロムとアイコンタクト。
あたしは...膝を内側によせてもじもじする。
「国王の命により、四方の正門が閉じられてる。暴徒の侵入を防ぐのと同時に、王都の掌握に本腰を入れるという...」
ようやく、あたしの緊急事態にも気が付いてもらえたようで。
くねくねと動きつつ、その場で飛んだり、走ったり...
ああああああ、あああ、ああああ~
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、、、、
でちゃう、でちゃう...
も...
「ちょ?」
「ごめ...」
あたしは、背の高い草の中に飛び込んだ。
もう甲冑を脱ぐとか、そんな次元じゃない。
なむさ...ん。
「セルコット...さ?」
「だめ! 聞かないで。あたしの心が壊れる...」
そう、間に合わずに漏れた。
決壊して放水の一部始終を見られずに済んだことは、幸いだけど。
やっぱり、なにかは失った気がする。
自尊心?
いや、もとからお高くはとまってない。
背徳...か、ん?
かも、かもかも。
しゃがんで出来た――えらい
エルフのこの中で...あたしはめっぽう遅かった。
大好きな“お姉ちゃん”の前でいっつも漏らしてたなあ...あれは、求愛行動だったのか。
いや、気を引きたくて寸前まで我慢してたのかも、とか。
「セルコットの奴は、暫く戦線復帰は無理だな」
ヒルダのキツイ台詞。
草葉の陰にある、あたしにも聞き取れた。
「酷くないですか!!」
ミロムではなく、再合流した後輩の声。
「いや、酷いも何も...」
人の目を憚り、
彼女、ヒルダは後輩の耳元で――「あの子は漏らしたから、着替えが終わるまで私たちと行動できない。察するなら、ここはミロムに任せて...」なんて配慮ある言葉が紡がれていきます。
いやあ~
いい友達だけど、後輩にぶっちゃけ過ぎます。
せめてそこは...もっと、オブラートに。
ぽんぽん痛くなったから、とか。
所用で、とか。
「や、ミロム先輩ばっか...ずるい!!」
「お、セルコットのやつ案外、好かれてるんだな」
後輩の“ずるい”はちと、違う気が。
ヒルダも分かっててからかってるようだし...
はあぁ...