港街の悪い噂 7
2022年に親族に不幸があったので、新年の挨拶は控えさせていただきます。
年が明けました。
2023年の抱負として、定期更新ができればいいな、と思っています。
そしてメインと同じように、愛されるような作品になってくれると、いいな。
さんぜん円ねこ
「ボディ...よ、宜しいのですか?」
あたしたちを使わないのかって、番頭さんは告げたかった。
が、修道女は――「教会に申し込まれた招待だ。しかも、教区長秘書の左腕を化け物に変じさせるってんだから、信仰の秘跡ってのに興味があるってんだろ。教区長に調査続行の認可は得ているから、騎士団も連れて行く」
って、告げてた。
各教区に密かに設置された聖堂騎士団。
耐性の高い付与魔法と、女神の加護付のフルプレートアーマーで身を守り、戦う者たち。
魔獣や魔族に対する人間サイドで唯一の対抗策と言える。
ま他にも、迷惑な魔法使いが遺していった生産品の回収と破壊も、彼らが行う時がある。
「...」
「騎士団を連れてくるのは彼らも承知している筈さ、教会の歳入についてちょっとばかし、知り得る者を傍に置いているんだろう。こっちの足元見てるつもりで、デカイ態度を取っていてくれるなら...こっちもやり易いんだけどね」
と、零してから。
彼女は番頭に『あとは任した』と、夕闇に消えた。
◆◇◆◇◆◇
クリシュナの冒険者ギルドは、教会に借りが作れるならと、快く人手を集めてくれた。
紅の修道女と、騎士団らは指定された旧領主館へと訪れる。
相対するのは領主と、黒装束の方々。
黒装束らはあくまでも、領主が主人という態に拘っているように見える。
「どうですか?」
領主の声が上ずって聞こえた。
背後にいる者たちから言わされている感はある。
が、その本人も満更ではないという雰囲気もあって、滑稽には見えた。
「この事ですか...」
思った以上に獣化していないのを目撃した、領主の狼狽ぶりは小物感丸出しである。
控える装束たちの落ち着き具合にも彼女は納得してたようで、
「やはり驚きませんか?」
「も、もちろんだ! だ、だが...完全には治せなかった、よ、ようだな!!」
と、口にしなくてもいい情報を告げる領主。
それを小突く装束といったコントが見れた。
「あなた方が何故、こちらに真っすぐ交渉を持ち掛けられてきたのかが、不思議でなりませんでした。
そこで色々、調べさせてもらったところ...」
絶妙なタイミングというのがある。
タネ明かしとか、まあ、そういうの。
あたしは、集会場のど真ん中へ、番頭さんを放り投げてた。
おっと、両サイドの視線が刺さってるけど...えっと、不味かった、かな?
「ちょっとだけ...姐さん、早いです」
後輩からダメ出し貰う。
「でも、まあ。これで、あなた方の情報源は分かりました」
番頭さんの身体に無数の刃の後。
あたしに対し、悪意を持って近づく者はスーリヤの従者から、嫌というほど切り刻まれるという呪いが発動する。
これをあたしは、カウンタースキルって呼んでいる。
で、一仕事終えた彼らは『王冠をよろしく』なんて、呟きながら去っていくんだけど...
やっぱ、加護とか過保護っていうよりも“呪い”だと思うんだわ。
あたしから進んで相手の懐に飛び込む時は、発動しないから...例えば、異性の意中の~何某ができたとしても、たぶん...問題はないと思うんだ、わ。いあ、問題と思いたい自分がいると...いってもいいかな? ね...。
「解毒薬の方から...進んできたという訳ですか?」
黒装束の方から声をあげる。
とうとう領主さん抜きに会話が進められたようだ。
「待て、儂の立場も」
ほら、領主さん憤慨している。
蔑ろにすると、駄々こねるんだよこういう人って。
「財布は黙ってろ!」
黒装束も溜まってたんだろうねえ、ついに堪忍袋の緒が切れるとか。
キツイ言葉で突き放しちゃった。
ああ~、領主さん可哀そう。
黒装束らは刀を抜くと、それまで対立してた風の冒険者たちも、踵を返してこちらに威嚇。
なるほどそういう構図だった、か。
この港街はギルドもひっくるめてエネミーサイドだったということ。
しかも、これで終わらないのがこの街の闇だと思うトコで。
聖堂騎士団も、ふたつに分かれて対峙する――おっと、こりゃ内輪もめ開始ですか?
◇◆◇◆◇◆
いろいろ、どんでん返しがあるようで。
港街クリシュナの黒い噂は、闇賭博くらいだった。
中毒性の高い“麻薬”の流行も囁かれてはいたが、地域的に(流出が)限定されているので、国の査察が入るほどのものではないとされた。
それよりも、領主の脱税が疑われたようだった。