若返りの薬
「立野くん。今、なんの研究してるんですか?」
近所のおばちゃん(50歳)が気さくに声をかけてきた。
「若返りの薬です」
「んまあー。ぜひ私を被験者に!」
「見た目、10代になりますが、大丈夫ですか?」
「大丈夫!私、気持ちは10代のまんまだから!」
「では、これを飲んで」
オレンジジュースそっくりの飲み薬だった。
ごくごくごくごく。
ぷはあ。
するすると痩せて、ほっそりとなった。肌も艶々。
「そーいえば、聞いてませんでしたが、10代になって何をするつもりですか?」
立野くんが素朴な疑問を口にした。
きらーん。
双眸が煌めく。
「世界征服」
「はあ?」
「天下取ったる!」
メラメラ瞳の中の炎が燃えてる。
彼女はセクシーな衣装に着替えて、時の支配者に会いに行った。
「私を妻にしてください!」
「お嬢ちゃん、あと10年してから来なさい」
「なんで?」
「若すぎるんだよ!犯罪になっちゃうよ!」
彼女はすごすご帰ってきた。
「元に戻る薬もありますが、どうしますか?」
「あと10年成長するまでこのままでいます!」
「決意は固いんですか?」
「もちろん」
「お子さんがいらっしゃるんじゃないんですか?」
「知りません」
「旦那様はどうされますか?」
「それも知りません。私は、新しい人生を、後悔しないように生きます」
これは、困ったぞ、と立野くんは思った。