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Queen of Calamity  作者: 〇ス〇ス〇
6/8

揺らぎ

腕を組み真っ直ぐに立つ。少し顔を上げ、草の一本一本を見比べ、それが目当ての物かを確認する。

人間の視点であれば見下ろせる高さの草花も、私の視点からでは少し見上げる形を取らねばならない。

背筋を伸ばすこの姿勢と、木々の間から漏れる出る太陽光が目に入る刺激で、それなりにキツい。

適当に突撃して適当に引っこ抜けばれ楽なのだが、間違ってイラクサに触れるわけにもいかないため、慎重にならざるを得ない。


イラクサというのは血液を綺麗にする効能を持つ薬草のことで、ニョッキ等に練って食す。繁殖力が強く、ギザギザした葉を生やしている。

正直私にはただの雑草にしか見えないが、触るとヒリヒリしてとても痛いのだ。昔それと知らずに背中からダイブしてしまった時は三日三晩地獄だった。


その罠を掻い潜り、ジーラという三角の葉を持つ植物を採取している。

ジーラというのが何科の植物かは知らんが、食せる野草でそこそこ美味い。

それにしても――


「ローザ」

「なに?見つかったの?」

「いや、そうではない」

「なに?」

「もう飽きたぞ」

「またそんな事言って……来たばかりでそんな事言わないの!ほら、無駄口ばかりじゃ終わらないよ」



今私は南東の森で野草探しと言う名の強制労働に従事している。まるで奴隷の気分だ。

そんなもの侍女にでも言いつければ良いのに何故私が……

ティーカップ片手に書類の作成ならまだしも、こんな泥臭い仕事をよく平気な顔してできるものだ。

そもそも、雑草の生い茂る場所で、迷いなくジーラのみを収穫できる事がおかしい。

慣れれば簡単と言うが、さも常識ですと言わんばかりの物言いは止めろ。その慣れは現地民だからこそ言えるのだ。高貴な私にそれを押し付けるな。



「今日のお昼はお母……ルアーナさん担当だけど、バルトリーは何もしなかったって言っちゃお――」

「よし!キリキリ働くぞローザ!……おっ!これではないか?」

「もう……調子良いんだから」



ルアーナというのは、向かいの家に住んでいる太めの女だ。

ヴィートという厳つい男の妻で、クソ餓鬼……ニコロという一人息子がいる。

昔ローザの父親に助けられたとかなんとかで、夫婦揃ってローザを気にかけている。

ローザはルアーナを実の母親のように慕っているのだが、私の前では変に強がって名前で呼ぶのだ。小娘にも人並みの羞恥心はあるようだ。

それを茶化すほど私の器は小さくないのだから、普通に甘えれば良いものを。


そのルアーナだがな、料理が格段に美味いのだ。

この地に来て、初めて火を使った本当の料理を口にした、という理由もあるが、それを抜きにしても美味かった。

私の舌を唸らせるだけはある、給仕として飼いたいほどだ。


ローザの料理も食べてはいるが、ルアーナの方が断然良い。

まぁ、ローザも味は悪くないのだ。ただ、彩りはあまり良くなく、無骨すぎるあまり食欲がそそられない。

幼少期を考えれば多少の理解はできるが、こう、何だ?もう少し色気を出さないと男が寄り付かんぞ。



そういえば、キミらには伝えていなかったが、私がこの村に来て一月ほど経っている。

ローザはあの日に旅に出ようとしたのだが、その時は皆に取り押さえられていたな。

ヴィートが泣くのは滅多に無いそうだが、ローザに泣いて縋る姿は見るに堪えなかった。

私もローザを止めたぞ。まぁ、私の場合は別の理由だったがな。



その時ローザと話し合って決めたのだが、暫くはこの村で共同生活をすることに決まった。

特に期限は設けていないが、ローザの抜けている常識を矯正するまでは当分、といったところだ。

日の出ている内はローザと共に村の仕事、日が落ちてからはローザの家庭教師という役回りだ。



まずは通貨について知識を与えねばならんし、面倒な教会関連や、移動の要となる交通手段も教えねばな。

あぁ、野盗については真っ先に教えたぞ。

小娘の事だ、きっと相対したら正面切って説教するに違いない。

世の中には正攻法だけでは通じない者もいるのだ、馬鹿正直に突っ走れば死期を早めるだけだ。

巻き添えで死にたくはないからな。そうだ、これは後で確認のテストをしておこう。



「ふぅ~、これぐらいあれば足りるかな?バルトリーはどう?」

「見よローザ!四本も見付けたぞ!」

「上出来ね。じゃあ姉さんたちに声かけて水を汲んできましょ」

「料理が待ってるのだ、早く行くぞ!」

「もうすっかり虜ね、ふふ」



水場は北西の森の手前に湧く泉を利用している。泉の側には木製の甕のような物が置いてある。

狩りに行く者が行きがけに甕を置いていき、採取組が素材を洗った後、その甕に水を汲んで帰る。

甕の周囲には簡易的な獣除けが施されているので、女子どもだけで来てもそれほど危険はない。

木製の甕とこの仕組みの発案者はローザの母親らしい。


昔は陶器の甕があったそうだが、数が少なく割れやすい上に村では作れない。

それを不便に思ったのが発端だそうだ。

太い木をくり抜く作業は大変だったようだが、一度完成させてしまえば先々で重宝する。

木製であれば陶器や土器に比べ丈夫なので、乱雑に扱ってもそうそう割れない上に、時間経過で劣化しないからな。

それを、行きの道具入れとして使えば持ち込める道具が増え――罠の質も上げられ――効率が良い、ということらしい。


ローザの両親は別の地から来たそうだが、知恵があることから考えるに、元はそれなりの身分だった可能性があるな。



ガサガサ――



「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん!」

「イルダ……走ると危ない」

「あっ、イルダ姉さん、イデア姉さん」

「二人は採取終わったの?」

「今日はこんな感じよ。姉さんたちは?」

「オーヴォリ……それと……ソルボがたくさん」



ちなみに、今日はこの姉妹も採取組だ。無駄に体力が残っているのかイルダが勢いよく駆けてきた。

相変わらず落ち着きのない娘だ。ローザに悪影響だぞ、自重しろ。

イデアも足音ぐらい立てろ。まるで暗殺者の足運びだぞ、それ。



基本的に採取は四、五人で受け持つ。見回る地域を分担し、それぞれ別の物を採取してくるのだ。

こちらの森には小動物しか生息しておらず比較的安全なので、その日手の空いている女が担当することになっている。

皆、得意分野があるようで、ローザが野草全般だとすると、イデアがフンギ――キノコ、イルダが木の実や花だ。

オーヴォリはブナの木の下に生えるフンギで、卵のような見た目をしている。サラダとして食すと旨い。

ソルボというのは赤い木の実で、リンゴのような香りがする。食すのも良いが、乾燥させ砕いた物を畑に撒くと作物がよく育つので、肥料としても使える。

ブルーナ達が小麦の種まきをすると言っていたので、きっとそれに使うのだろう。



「あっ、そういえば、何かニコロが大物狩ってくるって朝言ってたよ」

「あまり……期待してはダメ」

「そうだぞイルダよ、イデアに同調するのは癪だが、あのクソ餓鬼に期待するだけ無駄だ」

「そんな事言ったらニコロが可哀想でしょ!」

「でも……昨日も……一昨日も……同じこと言ってた」

「もう!イデア姉さんまで」



こうしていると、伸び伸びとした日常を過ごすのも悪くないと思える。

今まで落ち着いて生活する機会に恵まれなかったせいか、何かこう、癒される。

もちろん、無くした記憶は気がかりだ。だが、それを忘れて今の生活を楽しむのも悪く――



「それはダメだからね!」

「シレッと心を読むな!」

「以心……伝心」

「あたしもバルトリーの心を覗いてやるぅ!」

「馬鹿者、張り合わんでいい!……ローザも拗ねるな、ただの冗談だ」




今日も穏やかな日常が過ぎていく。

他愛もない話に花を咲かせ、ただただ平穏な生活に浸る。

自らの罪を忘れたままに。



目を通していただき、ありがとうございます。

どちらかと言えば、良い評価よりも辛辣で率直な感想を貰える方が望ましいです。

より良い物ができればと考えています。

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