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Queen of Calamity  作者: 〇ス〇ス〇
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隣家の姉妹

ここはタラコザ。ローザの住む村であり、私が迷い込んだ地である。

大陸の中南部に位置し、村の北西、南東にはそれぞれ森がある。

人口は十七人――世帯単位は僅か七――しかなく、村ではなく集落が相応しい。

国からはそもそも村として認識されておらず、そのせいか外部からは滅多に人が来ない。

村内に小麦畑を有しているが、二圃式農業を展開している様子はない。

北西の森では狩りを、南東の森では果実や木の実、野草等の採取を行っており、それらで生計を立てている。

北西の森の手前に小さな泉があり、そこで水を確保できる。

家畜は、山羊が四匹と牛が一頭のみで、馬の姿は見当たらない。

衣食住は村民同士の物々交換の様な形で成り立っており、金銭的なやり取りは一切見受けられない。

その為、通貨についての知識が乏しく、金銭感覚の無い者が多い。

金銭感覚の無さ故か、領地の所有権にも頓着しておらず、それぞれの家屋については、まるで割り当てられた部屋と同等の認識でいる。

当然、畑や家畜は特定の個人の物ではなく、村全体での所有物という扱いになっている。

まるで村全体が一つの家、そんな環境だ。


外部と断絶していてもおかしくない状態を懸念したが、それについては杞憂に終わった。

不定期だが、狩った獲物の肉、毛皮製品、木彫り製品を町に卸しているらしく、そこで交易を通じ交流があるようだ。

町へは二人組で行くのが基本であり、その編成は成人男性のみとのことだ。

南東の森を抜けた先にその町があるらしい。南東の森で狩りを行わないのはこのせいか……



ローザや村民への聞き取りで判明したのだが、何だここは。

田舎……いや、田舎の一言で片付けては後々大変だな。

集落は人間生活の基盤とも言えるが、ここにあるのは基盤だけではないか!よく生活していけるものだと感心さえする。

税の回収が回避できるという一点に於いては良いと思うが……いや、そもそも戸籍があるかすら怪しい……ここは石器時代か?

まぁ、石斧と腰蓑で生活しているわけではないが、一応当時ですら石や貝を通貨として運用していたのだ。それと比較してここは一体何なんだ。

一応の文化的交流……いや、外貨を得る手段はあるようだが、よりにもよって物々交換だと?馬鹿か?何故金銭で受け取らないのだ?。

人間社会でこんな事がありえるのか?こんな、何の柵のない場所など。こんな……



「良いところでしょ?」

「ちと時代に反逆しすぎだと思うが……」

「ほら見て、皆笑顔よ」

「……ふん」



他者の笑顔をじっくり見る機会は今まで無かったが、何故だか胸が温まるようだ。

どうしてかは分からないが、不思議と悪くないと感じる。

それにしても、皆一様に悩みなんてありませんみたいな顔しやがって、私のこれまでの苦労を擦り付けてやりたい。



「また悪いこと考えてるんでしょ?」

「そんな事はない」

「ふふふ」



今私は堂々と村を歩いている。まぁ、正確には歩くローザの肩に乗っているわけだ。

キミらには伝わらないだろうが、右肩の方が若干乗り心地が良い。利き腕が右のせいか安定感が違う。

まぁ、それなりに揺れるので快適とは言えないが、労せず移動する手段としては都合よい。及第点をやろう。


既にタラコザ村では全員と面識を持っている。ローザにより無理やり面通しさせられたのでな。

私が人語を話せることはその時に伝わっている。

まさか、これほどアッサリ受け入れられるとは思わなかった。そもそも、受け入れられた事自体初めてだった。

私の価値を理解できないからだと思うが、狙いを付けるような嫌な視線は誰からも感じなかった。

盥回しに撫でられ、質問責めに遭ったのは許さないが、受け入れられたという感覚は悪くない。

だからといって、お前たちを調子に乗らせるつもりはないから勘違いするなよ。



「ろ~ざ~~!ば~る~と~り~~!」



小走りで駆けてくる女、あの声は裁縫娘か。ということは……くそっ、あの無表情女も一緒か。

呼んでないぞ、帰れ、今すぐ。回れ右だ。



「あ、イルダ姉さん!イデア姉さん!」

「……こんにちは」

「出来たよ、出来たよ!あたし凄くない?凄いよね?ね!」

「おぉ、でかしたぞ裁縫娘よ!」



これだ、これ。待ちに待った服だ。私を着飾る第一歩だ。

それなりに長い時を裸体で過ごしていたのだが、これでまともな衣服を纏う事ができる。

冷静になって考えてみると、裸体で生活とか……羞恥で顔が焼けてしまいそうだ。


一応な、過去に木の葉や枝で服飾の真似事をしたことがある。だがな、考えてほしい。リスのこの手先で糸を縫えるか?無理だろう、こんなもの。そもそも針は地味に重いし、糸だって長すぎて扱いきれん。

ならばどうするか?できる者に投げれば良い。まぁ、そういうことだ。

なに?リスは服を着ないだろって?定義上はリスだが、あくまでも自称だ。服を着るリス。良いじゃないか。

それに、紳士淑女の嗜みとして服装にはそれなりに拘りたいのだ。



「もぉ~、イルダって呼んでって言ってるでしょ?名前で呼ばないとあげないよ?」

「何を言ってるのだ!見せびらかしにきたのか貴様は、性格悪すぎるぞ!」

「それをバルトリーが言う?名前で呼んであげないとイルダ姉さんが可哀想よ」

「私も……名前……呼んでほしい」

「シレッと混ざるな無表じょぉ――」


ぐにゃ


「バルトリー、その呼び方は禁止したはずよね?」

「いるだ……いであ……ぐるじぃ……たすけ――」

「名前……呼んだ」

「まぁまぁ、そのぐらいにしないとバルトリー潰れちゃうよ?あっ!そ・れ・よ・り・も、ローザのも用意したの、新作よ、新作!」


新作に反応したのかゆっくりと拘束が解ける。その隙に不足した酸素を取り入れる。

くそっ、怪力娘め。



目の前にいる女2人は隣家に住んでいる姉妹だ。

名は長女がイデア、次女がイルダという。アベラルドという長身の男とブルーナという細身の女の娘だ。


イデアは無表情で口数が少ない。表情が読めないので何を考えているか予測できない。

まぁ、これだけなら無害認定しても良いのだが、こいつはローザほど強くはないが握ってくる。つまり天敵だ。

木彫り細工に多少の心得があるようで、村にある小物はだいたいこの女の作品だったりする。細工を施す技術はそれなりにある……かもしれんが、私は断固として認めん。

そして決定的なのは、私の檻を作った張本人がこの女というところだ。

籠と言い張ってくるが、あれは間違いなく檻だ。鍵まで付けるなど失礼極まりない。

ローザは実の姉のように慕っているが、私は苦手だ。


イルダは典型的な阿呆だな。すぐ調子に乗るところと喧しいところは癪に障るが、少し煽てればだいたい何でも通る。読みやすく扱いやすい、都合が良い存在だ。

裁縫を得意とし、村民の衣類の大半を受け持つ。今も私の服を作ってきたらしいしな。

私の美的センスから見ても優秀で、期待して待っていたぐらいだ。まぁ、面倒なので本人には絶対言わないけどな。

イデア同様、ローザとは姉妹のような間柄だ。実年齢はイルダの方が上らしいが、私の目にはイルダの方が妹分に見える。まぁ、色々と述べたが、イルダに関してはそれなりに好印象を持っている。



「凄い!丈も丁度だし、刺繍も可愛い。やっぱりイルダ姉さんね!」

「でっしょ~!可愛い妹のためだもの、イルダ姉さんにっ、まっかせっなさ~い!」

「イルダ……調子に乗らない」

「は~い、あっ!バルトリーもこれこれ!早く着てみてよ!」


やれやれ、あまり落ち着きがないと淑女として恥ずかしいぞローザよ。

私か?私は別に高揚してないし、進んで着るわけではないぞ。それほどまでにせがむのなら着てやらんこともないという程度だ。さて、どれどれ……ん?


「見て見て!じゃぁ~ん!」

「イルダよ、これは何だ?」

「マント!」

「私の服は?」

「だからマントだってば!ほら、早く付けてみてよ!」

「や、止めんか!おい!乱暴にされると首が締ま――」

「いやぁ~バルトリーって小さいから刺繍入れんの大変だったんだよ?もう、感謝してよね!」

「――っぷは……くそっ、殺す気か!」

「イルダ姉さん、ありがとう。ほらバルトリーもお礼言わなきゃ」

「礼だと!?この端切れのために頭を下げ―」


ぐにゃ


「……あ゛り゛か゛と゛う゛」

「ふふ~ん、どういたしまして」

「イルダ……そろそろ」

「あっ!お母さんに怒られちゃう!じゃっ、まったね~!」

「ローザ……後でね」

「はーい、行ってきまーす!」



くそっ、マントだと?全裸と変わりないじゃないか。裸に布一枚など、まるで変態ではないか。

裁縫娘、お前だけは、お前だけは使えると思っていたのに……私の期待を返せ!

昨晩は高揚のあまり眠れないぐらい期待に胸をふくらませていたのだぞ?


「こんなの……あんまりではないか……」

「我慢しなさいバルトリー。イルダ姉さんだってお仕事あるんだから。それに、そのマントだけって事は絶対にないわよ」

「……本当か?」

「だって、ただのマントに刺繍まで付けてくるんだよ?これはまだ前菜よ」

「……言われてみれば確かに」

「一緒にメインディッシュを待ちましょう?」

「分かった」

「じゃあ行こっか」

「うむ」


ちなみに、ローザの分もマントだった。私と揃いの、花の刺繍が入っていた。

それにしても黄色とはな……もし、分かっていてやったのだとしたら余計なお世話だぞ。



目を通していただき、ありがとうございます。

どちらかと言えば、良い評価よりも辛辣で率直な感想を貰える方が望ましいです。

より良い物ができればと考えています。

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