第9羽「ラグラスを持って」
思いも寄らない一言に、うさ原さんは口をポカンと開けます。
「……どうしたの、急に……」
「いい加減、腹括りなよってこと」
「いや、でも──」
「〝いや〟とか〝でも〟とか言わない! ずっとうじうじしてたら、誰かにうさ月さんを取られるよ」
「……」
それは今までなら「そうだけど」と返していた言葉でした。しかし、今は違います。
うさ月さんが誰かのパートナーになってしまうのは耐え難い。そんな思いがうさ原さんの心に強く現れます。
「それは……嫌だ……」
「だったら今日告白しよう。仕事終わったらラグラスを持って、うさ月さんのところに行くんだ」
「……うん」
うさ原さんは決意を固めた瞳で頷きました。
閉店の1時間前。うさ村さんの気遣いもあり、うさ原さんは帰る準備を始めます。
すると、ウンベラータの葉でラッピングされたラグラスの花束が、目の前に差し出されました。
「これ、うさ原が摘んできたラグラス」
うさ村さんから花束を受け取り、そっと抱きかかえます。見違えるほど元気になった姿が、うさ原さんに勇気をくれます。
「うさ村、ありがとう」
「どういたしまして。頑張ってね」
「うん」
やさしい声に見送られ、うさ原さんは勇壮に店を出ました。
「──とは言ったものの……無理だぁ〜……」
先ほどの勇ましさはどこへやら。弱々しい声を発したうさ原さんはその場にしゃがみ込みました。しかし、首をブンブンと横に振り、すぐに立ち上がります。
「無理じゃない! 頑張るんだ!!」
自分を鼓舞し、再び歩き出します。うさ月さんの家まではもうすぐです。
「……あそこに寄ってから家に行こう」
そう言ってうさ原さんは、夕日に照らされた坂道を登ります。
少し歩くと、花畑が見えてきました。うさ原さんがラグラスを摘んでいた丘です。1歩近づくごとに、オレンジ色に染まる花たちが鮮明に見えてきます。
そこに、見覚えのある影が1つ。
うさ原さんは誰だろうと歩きながら考えていましたが、その影が振り返り目が合った瞬間、立ち止まります。
同じように、花畑の中にいるうさ月さんも驚いているようでした。