第7羽「好きな子」
「オレ、うさ月さんの……その……」
しどろもどろになるうさ原さんは視線を彷徨わせます。空中だったり手元だったりと落ち着きません。
それでも、隣にいるうさ月さんは静かに待ってくれています。
「えっと……あの……」
伝えたい言葉をすんなりと言えずにいると、段々とうさ原さんの緊張が高まってきます。早く言わなくてはと、気持ちが焦ります。
うさ原さんはパッと顔を上げてうさ月さんを見ました。
「サッ、サンドイッチ、が、また食べたいです……!」
しかし、発したのは別の言葉でした。直後にうさ原さんは心の中で頭を抱えます。
(違う違う! 違うってばぁーっ!!)
「本当ですか? 嬉しいです!」
「えっ、あっ、うん……!」
満面の笑みのうさ月さんを見て自分を情けなく思いつつ、この機会にニンジンを克服しようかと考えました。
うさ原さんがふと空に視線を向けると、遠くの方に暗い雲があるのが見えました。
しばらく他愛ない話をした後、2羽は帰路につきます。
「またどこかへ行きたいですね」
「うん。海はどう?」
「いいですね!」
和気藹々と話す姿は、今までの2羽からは想像ができない光景です。
その時、うさ原さんの耳に一滴の水が落ちてきました。空を見上げると1つ、また1つと雫が降ってきます。
「雨だ……!」
うさ原さんは周りを見回しました。道の脇に生えている大きな葉をつけた蕗を見つけ、その根元を折ります。
「はい」
「ありがとうございます」
それをうさ月さんに渡した後、自分用にもう1本折りました。
「近くに蕗があってよかったね」
「はい」
2羽は勢いを増す雨の中、蕗の傘を差して歩き出します。葉にいくつもの雨が当たり、心地よい音を奏でます。
すると、うさ月さんがおずおずと尋ねてきました。
「……あの、1つ聞いていいですか?」
「何?」
「うさ原さんって好きな子いますか……?」
「へぇっ!?」
予期せぬ質問にうさ原さんの声は裏返りました。
それを気にも留めず、興味深そうな表情をしたうさ月さんが、ずいっと迫ってきます。
「どうなんですか? いるんですか?」
間髪入れずに問われる言葉にうさ原さんの頭はパニック状態。何と答えていいか分からず、あたふたしてしまいます。
「えぇっと……あのぉ……!」
「……ごめんなさい。無理に聞くことじゃないですよね」
うさ月さんは静かにそう言うと、申し訳なさそうに身を引きました。
「帰りましょうか」
「え……う、うん……」
うさ月さんの顔は笑っていますが、どこか悲しそうです。
彼女にどんな言葉をかければいいのか、うさ原さんには分かりませんでした。しかし、うさ月さんが明るく話題を逸らしたため、それに乗って会話を続けることにしました。